角度により異なる表情を持つ別荘。街並みも
室内からの庭の眺めも多彩に、魅力的に。

軽井沢に別荘をと、土地を購入されたお施主さま。建築家の木島さんは、自然豊かではあるものの、より「軽井沢らしさ」を堪能するためにはひと工夫必要な敷地と感じたという。敷地の対角線方向へ視線を導く建物配置や、樹々の梢に意識を誘う特徴的な勾配屋根と窓によって、雑木林に囲まれた環境の魅力は引き出された。

この建築家に
相談する・
問い合わせる
(無料です)

対角線に視線が誘われる建物配置。
樹林の奥行き感を引き出し、軽井沢らしく

日本有数の別荘地である軽井沢に、ウインタースポーツを楽しむことはもちろん、いずれは夫妻での移住も視野に入れ1年中静かに過ごせる別荘を建てたいとお考えになった施主のKご夫妻。すでに独立したお子さま家族も一緒に滞在ができる別荘づくりが始まった。購入したのは、以前は1000坪ほどあったものが3つに分譲されたうちの1区画で、緩い傾斜のある土地だった。

設計を担当した一級建築士事務所 木島千嘉建築設計事務所の木島千嘉さんは「東京など都市部に比べれば敷地は広く、緑豊かな場所ですが、それでも従来の軽井沢のイメージと比べると、樹が間引かれ、土地の起伏が均され、木々の間から道や隣家が透けるようになっていました。樹林の重層感が薄れ、どこか均質化されているのを残念に思いました。」という。

プランニングにおいて、軽井沢らしい景観と環境を堪能することを目指した木島さんがまず検討したのは建物の配置とフォルムだ。

先述の「樹林の重層感」を取り戻すため、配置計画ではまず、既存の樹木を最大限に残しつつ、建物の軸を、敷地の長辺に平行にするのではなく、地面の傾斜に沿いながら対角線方向にとった。角度を振ることで、室内の窓から敷地の角に向かって視線が誘われ、緑の奥行き感が得られることになった。また、L字型の建物によって敷地を緩く3つのエリアに分けた。日差しを楽しむ場、木陰を楽しむ場、雪の積もる様子を楽しむ場など、南・北・西の方位ごとの特徴や、L字に囲まれる側と出隅側の違いなどによって外部空間の性格を変え、限られた広さの中にも様々な場所を見出すことが試みられた。

緑の見せ方にもこだわったという。掃き出し窓や高窓、腰窓など大きさが異なる窓を配することで、居場所や視線の向く方向によって樹木の見え方が変わるようにした。サイズや高さだけでなく方位も様々な窓からは、順光、逆光、季節や時間の移ろいによって異なる木々の表情を楽しめるという。さらに、条例により軒を必ず60cm出さなくてはならないというルールを活用し、日射をコントロールする軒の深さやフォルムもその場に合わせてデザインすることで、室内と庭の距離感もバリエーション豊かに演出された。たとえば南向きの窓からは逆光の中、軽井沢らしい雑木林の木陰を楽しめる一方、リビングの北東側はテラス越しに北側の庭に続く掃き出し窓で、勾配屋根越しに影の落ちない明るい庭木を眺められる。振り返って南西側に設けられたハイサイドライトからは、梢の葉の揺らぎや日射のきらめきが感じられる、といった具合だ。
  • 北から見る外観。建物右端、軒が深く出ている場所は駐車場。外部収納をつくり、スキー板などを車から降りてすぐにしまえるようにした。建物中央、2階部分はお子さまたち家族のための寝室。異なる形状の屋根が組み合わさった目を引くフォルムながら、風景に溶け込んでいる

    北から見る外観。建物右端、軒が深く出ている場所は駐車場。外部収納をつくり、スキー板などを車から降りてすぐにしまえるようにした。建物中央、2階部分はお子さまたち家族のための寝室。異なる形状の屋根が組み合わさった目を引くフォルムながら、風景に溶け込んでいる

  • 南東側から見た外観。1階の大きな窓はダイニングのもの。方向により印象が異なる「森の三面相」。この方角からは屋根の印象の薄い、ビルのようなシンプルな佇まい

    南東側から見た外観。1階の大きな窓はダイニングのもの。方向により印象が異なる「森の三面相」。この方角からは屋根の印象の薄い、ビルのようなシンプルな佇まい

  • リビング。右奥は玄関へ続く。テラスを室内に引き込み、軒は天井から延長させるなどして、内部と外部の繋がり方に曖昧さを持たせた。西(左)、北(右)、2つの窓から庭の緑がそれぞれ眺められるが、窓の大きさ、位置、また光の入り方で見え方はそれぞれ異なる

    リビング。右奥は玄関へ続く。テラスを室内に引き込み、軒は天井から延長させるなどして、内部と外部の繋がり方に曖昧さを持たせた。西(左)、北(右)、2つの窓から庭の緑がそれぞれ眺められるが、窓の大きさ、位置、また光の入り方で見え方はそれぞれ異なる

  • ダイニングから家の奥を見通す。正面の壁の裏は入れ子状につくられた寝室。通路部分は書斎。片流れ屋根を生かした天井が一続きになり、奥行きが感じられる

    ダイニングから家の奥を見通す。正面の壁の裏は入れ子状につくられた寝室。通路部分は書斎。片流れ屋根を生かした天井が一続きになり、奥行きが感じられる

  • ダイニングから南東の庭を見る。2階まで開口が連続し、大きな木々が並ぶ姿をゆったりと眺められる

    ダイニングから南東の庭を見る。2階まで開口が連続し、大きな木々が並ぶ姿をゆったりと眺められる

方角ごとに異なる印象の外観をもつ家は
街並みを繋ぐバッファとして機能する

「森の三面相」というのは、建物の印象を一つに限定しないことを目指したタイトルだとのこと。

別荘地では、得てしてオーナーそれぞれの趣味・世界観を表した建物がバラバラなまま隣り合っているのが気になる、と木島さん。「昔は敷地が広大で、建物の周りを囲む庭が緩衝帯としても機能していたけれど、区画が細分化されるにつれ、テイストの異なる建物が木立の合間にひしめき合っているという状況も少なくない。それぞれの建物だけを見れば良いかもしれないが、街並みとしてはちぐはぐだし、雑木林の拡がりや一体感が損なわれるのは惜しい」と語る。

だからこそ、この「森の三面相」は自己完結せず、隣の家のテイストと衝突しない在り方を検討した。そして、そのためには特定の「○○風」と括られないようにすればよいのではと考えたという。しかしそれは、無個性ということではない。北から見ると大きな片流れ屋根が印象的な家、南東側からはビルのようにシンプルなフォルム。一方、西側からは凸凹のある不整形な建物に見える。一体的でありながら、それぞれの面で洗練された、異なる佇まいをつくり上げた。さまざまな顔を持つ建物には、自然と外の世界が紛れ込む。こうして、木立の中で周囲の建物や自然環境を緩やかにつなぐバッファとしても機能するようになった。

実は竣工から数年後、お孫さまが増えたことなどが理由で手狭になり、別荘の一角に増築したとのこと。その機会でも、室内からの眺めが変わらないこと、また外観の魅力を損なわないことを重視した。

増築部分は西側の壁面にぴたりとついている。基礎を深く掘らなくてはならない規制を逆手に取り、基礎部分まで居住空間とすることで建物のボリュームを小さくし、建築コストを下げた。背の低い建物は既存の建物のリビングにあるハイサイドライトの下に収まり、視界は変わらない。また、増築部分は構造的に独立しているが既存の建物から屋根をかけ流し、一体感を出した。

「建物を建てることにより外部と繋がることができる、近隣と価値を共有できる場所をつくり出せたらいいと思っています」と木島さん。異なる個性を持つ建物たちを緩やかに受け止める「森の三面相」ができ、周囲の環境はよりよいものになったに違いない。
  • ダイニングからキッチン、右に折れリビングへと続く室内。天井の形状や高さの変化が、様々な居心地をもたらしている。キッチンはLDKの中央に配置。コミュニケーションが取りやすい。庭の緑は直視だけでなく、画像右奥のように窓の反射からも眺められる

    ダイニングからキッチン、右に折れリビングへと続く室内。天井の形状や高さの変化が、様々な居心地をもたらしている。キッチンはLDKの中央に配置。コミュニケーションが取りやすい。庭の緑は直視だけでなく、画像右奥のように窓の反射からも眺められる

  • リビングからキッチン、ダイニングを見る。外との繋がり方にもこだわり、L字であることを忘れそうなくらいに全方向へと広がりのあるLDKを実現した。角度や高さ、光との関係性、またガラス越しか直視かなど、表情の異なる自然を場所によって、また時間と共に堪能できる

    リビングからキッチン、ダイニングを見る。外との繋がり方にもこだわり、L字であることを忘れそうなくらいに全方向へと広がりのあるLDKを実現した。角度や高さ、光との関係性、またガラス越しか直視かなど、表情の異なる自然を場所によって、また時間と共に堪能できる

  • 2階、お子さまたち家族のための寝室。正面の扉は小屋裏収納だが、現在はそこも畳敷きとし寝室として使用している。窓からは北方向の眺めが楽しめる。季節によって浅間山も見えるという。窓の前、室内を薪ストーブの煙突が通る。煙突表面は触れてもやけどをしない仕様となっている

    2階、お子さまたち家族のための寝室。正面の扉は小屋裏収納だが、現在はそこも畳敷きとし寝室として使用している。窓からは北方向の眺めが楽しめる。季節によって浅間山も見えるという。窓の前、室内を薪ストーブの煙突が通る。煙突表面は触れてもやけどをしない仕様となっている

  • 書斎から寝室を見る。寝室内にウォークインクローゼットを設けたことで、通路に深さがある。プライベートな寝室を一層安心できる場所にした

    書斎から寝室を見る。寝室内にウォークインクローゼットを設けたことで、通路に深さがある。プライベートな寝室を一層安心できる場所にした

  • 入れ子状につくった寝室は、天井にルーバーとオーニングを設置。冬はオーニングを閉じ、暖気を室内に留める。ハイサイドライトからの日射をコントロールする役割も持たせた。いくつかのレイヤーを重ね、環境を自身でコントロールすることを楽しんでいただきたいと木島さん

    入れ子状につくった寝室は、天井にルーバーとオーニングを設置。冬はオーニングを閉じ、暖気を室内に留める。ハイサイドライトからの日射をコントロールする役割も持たせた。いくつかのレイヤーを重ね、環境を自身でコントロールすることを楽しんでいただきたいと木島さん

2人でも大人数でも過ごしやすい間取り。
広がりある空間で別荘での時間がより豊かに

では、室内を詳しく見てみよう。家は2階建てで、1階にはLDKと水回りに加え、主寝室などお施主さまのプライベートスペースがある。2階は主にお子さまたちの家族が訪れたときの寝室として使用するとのこと。また先述の増築部分は、お孫さまたちが皆でわいわいと寝るスペースとして計画。この配置は、お施主さま夫妻がおふたりで過ごされる際にも、空間を持て余さないように、という考えから決定したそうだ。

別荘でもキッチンで過ごす時間が長くなりがちという奥さまのため、玄関からはリビング、キッチン、ダイニングと繋げ、ちょうどL字の角、家の中央にキッチンを置いた。リビングとダイニングのどちらに、または両方に家族がいてもコミュニケーションが取りやすい。

寒冷地であることから外気に触れる面積を抑えたシンプルな外観でありながら、内部のつくりは変化に富んでいる。まず、室内は土地の傾斜を生かし、玄関からLDKに入るところで床レベルを下げて空間の広がりを強調した。それだけではない。リビングには、一段レベルの高い北側のテラスが室内に一部入り込んでいる。逆にダイニングの床が延長するように伸びる南東側のテラスなど、細かな視点の切り替わりをつくったという。

同じく天井も、LDKの中でぐっと抑える部分や2階までの吹き抜けなどさまざまに展開させた。主寝室は動線の一番奥に入れ子状にして配置。天井はダイニングと一体であるため、壁の向こうを感じさせ奥行きも演出している。

また窓と軒との繋がり方もそれぞれに合わせて計画。これら一つひとつの細やかな調整が組み合わさり、室内での空間の広がり、庭の見え方、庭との距離感が多様なものになる。それがまた、別荘らしい時間の豊かさにつながっている。

お施主さまは、一年を通して季節の魅力を味わいながら過ごせるとお喜びだ。また、「独創的な外観もご近所から注目を受け、自慢の建物に仕上がってとても満足です」と嬉しい言葉も寄せてくださった。ご夫妻で、ご家族と一緒に、その時々の過ごし方に応じて居場所を選びながら豊かな時間を過ごされている。



協力事務所:平井直樹建築設計事務所
撮影:上田宏
  • 外観。手前に張り出しているのが増築部分。基礎を深く取らなくてはならない規制と、高低差のある敷地を逆に生かし、背の低いコンパクトな建物をつくった。屋根を既存の建物からかけ流し、建物としての一体感を守っている

    外観。手前に張り出しているのが増築部分。基礎を深く取らなくてはならない規制と、高低差のある敷地を逆に生かし、背の低いコンパクトな建物をつくった。屋根を既存の建物からかけ流し、建物としての一体感を守っている

  • 1階。正面かつての勝手口部分に新設した階段を下りると増築部分に、左手の階段から二階へ上がる

    1階。正面かつての勝手口部分に新設した階段を下りると増築部分に、左手の階段から二階へ上がる

  • 増築部分。左の既存の建物と構造的には分離しつつ一体化させたところを明かり取りとし、視線の抜けも確保

    増築部分。左の既存の建物と構造的には分離しつつ一体化させたところを明かり取りとし、視線の抜けも確保

間取り図

  • 配置図

基本データ

作品名
森の三面相
所在地
長野県北佐久郡
家族構成
夫婦
敷地面積
1027.71㎡
延床面積
145.86㎡
予 算
5000万円台