抜け感のある内部空間と呼応する2つの庭
手の跡を感じる、豊かな表情を愉しむ家

「コスパ」「タイパ」という価値観とは対極にある、あえてひと手間をかける家づくり。高田宏明アトリエ 一級建築士事務所を主宰する高田さんが大切にする、手の跡を感じる空間とは。その答えを内包する「A-HOUSE」を紹介する。

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敷地の選定からじっくり時間をかけた
どこに居ても自然を感じられる住まい

福岡県のとある住宅街。施主のAさんは、複数同時に売り出されていた分譲区画のいずれを購入するべきかから相談。

依頼を受けた高田さんは、3つに絞った候補地それぞれのラフプランを作成。メリット・デメリットを踏まえて比較検討した。

建築地に決まった敷地の特長について、一言で表すなら「外部空間のバランスのよさ」だと語る高田さん。

約49坪は福岡エリアにおいて特別広くはないものの、二面道路に接した敷地には、内部からの視線の「抜け」をつくることができるちょうどいい余白があった。

「必要な部屋数を確保した上で、抜けになる部分に緑を盛り込むことができる。それが叶う点にポテンシャルを感じました。毎日過ごす家は自然を感じられる場所であってほしい。そんな想いが、その先のプランニングにも繋がっていきました」。
  • 外壁のガルバリウム鋼板は部位ごとに張り方や板幅を変え、均一な表情にならないよう工夫。住宅を単なる工業製品としないこのひと手間こそが、住まいに命を吹き込む。

    外壁のガルバリウム鋼板は部位ごとに張り方や板幅を変え、均一な表情にならないよう工夫。住宅を単なる工業製品としないこのひと手間こそが、住まいに命を吹き込む。

  • 玄関部分には大きな庇を出し、日傘や雨傘の役割を持たせた。庇に守られる外壁部分は塗り壁を選択し、ガルバリウム張りの外観に柔らかさと軽やかさを添えている。

    玄関部分には大きな庇を出し、日傘や雨傘の役割を持たせた。庇に守られる外壁部分は塗り壁を選択し、ガルバリウム張りの外観に柔らかさと軽やかさを添えている。

20ものプランを経てたどり着いた
内部と外部が繋がるベストなかたち

2~3カ月の間、施主と定期的に会って対話を重ねながら、図面にどんどん手を加えていくのが高田さんのスタイル。

角度を変えたり、違った視点で眺めてみたり。試行錯誤をする中で、施主の想いと敷地・プランが折り合う瞬間が訪れる。それを高田さんは「これ以上動かしようがなく、どこから見ても輝いている状態。ストンとはまる瞬間が必ずあるんです」と表現する。

A邸では20通りものプランが生まれたが、一つの軸としてぶらさなかったのが、家族が長くいる場所=リビングダイニングが2つの庭に接していること。

玄関から家に入った時、ソファでくつろぐ時、食卓を囲む時、階段を上り下りする時。

どこにいても庭や緑が目に入り、自然を感じられる住まいをつくることを大前提に、より暮らしやすい間取りになるようブラッシュアップを重ねていった。

また、設計において意識したもう一つのポイントが、流動的に繋がる内部空間。

床段差や縦格子を設けることでワンフロアのLDKを緩やかにゾーニング。2階には、主寝室や子ども部屋への動線上に、書斎やサブリビングとして活用できるホールをレイアウトした。
  • リビング側を大きく開き、庭との一体感を演出。擁壁と意匠を揃えたコンクリート打放しの塀、積み上げた孔空きレンガを、道路からの視線を遮る目隠しとして機能させている。

    リビング側を大きく開き、庭との一体感を演出。擁壁と意匠を揃えたコンクリート打放しの塀、積み上げた孔空きレンガを、道路からの視線を遮る目隠しとして機能させている。

  • リビングとダイニングの双方が庭と接するようにプランニング。床レベルをずらし、さらに縦格子を設置することで緩やかにゾーニングし、過ごし方にメリハリをつけられるよう整えた。

    リビングとダイニングの双方が庭と接するようにプランニング。床レベルをずらし、さらに縦格子を設置することで緩やかにゾーニングし、過ごし方にメリハリをつけられるよう整えた。

  • 敷地全体を住まいと考え、擁壁や駐車場を含む外構や植栽までトータルに提案。街並みに調和しつつも存在感を発揮する「ここにあるべき一邸」をデザインした。

    敷地全体を住まいと考え、擁壁や駐車場を含む外構や植栽までトータルに提案。街並みに調和しつつも存在感を発揮する「ここにあるべき一邸」をデザインした。

抜け、陰影、素材感。大げさに飾り立てず
豊かな表情を与える、ひと手間のデザイン

手の跡、情景。そこにあるべき住まいを考える。これが高田さんの設計理念。

シンプルでありながら変化に富む空間のつくり方、内装や外観の仕上げ。A邸においても、手の跡、すなわち職人の手仕事を感じられる造形や納まりを、細部にまで見て取ることができる。

ダイニングから床レベルを一段下げたリビングは、段差の蹴込み下を掘り込んで奥行きを創出。床板が浮いたように見える構造、凹凸がもたらす陰影により、表情に変化が生まれている。

さらに、ひと手間をかけた意匠で特徴的なのが2階の天井の設え。一般的には屋根材の下に隠れる「梁」と「垂木」を現しに。梁と垂木の取り合い部に隙間を設けて天井を浮かせ、軽やかさを演出した。

FIX窓と地窓で外部との連続性を強調した玄関&ホールは、塗り壁、無垢の木、木毛セメント板など自然由来の素材を選択。トイレのドアは造作で仕上げた、手仕事による“ゆらぎ・温度”を感じられる空間だ。

「木なら木、石なら石、コンクリートならコンクリートと、素材本来の質感をなるべくそのまま生かしたいなと。できるだけ自然に近い状態で使うことがベースの考えとしてあるので、リビングの鉄骨階段もあえて塗装をしていません」と高田さん。

リビングダイニングと繋がる2つの庭、整えられすぎていない程よくラフな素材感。これらの要素が調和することにより、この場所にあるべき「内部空間と外部空間が呼応する家」が完成した。

手間ひまと時間をかけることこそ
家づくりという行為を楽しむ「原点」

外壁のガルバリウム鋼板は横張りと縦張りをランダムに配置。さらに板幅に変化をつけたのも、手仕事ならではの表情と味わいを大切にする高田さんらしさ。

「施工の手間がかかるので、職人さんたちには嫌がられているかもしれませんね」と笑いながら、その理由を語ってくれた。

「世の中には均一な見た目のものがあふれているからこそ、そこにひと手間を足して、自分なりに遊び心を出せたらなと。なるべく手間をかけず効率を重視することがよいとされがちですが、それだけじゃ面白くないよねっていう。そんな気持ちですね」と高田さん。

物価高の時代、住宅においてもタイパやコスパを追求することが「賢い選択肢」だと言われることは少なくない。

だからこそ「そうではない選択肢があっても面白いよね」という一言からは、「急がず焦らず、いっそ遠回りしてもいい。家づくりというクリエイティブな行為を楽しもう」という、シンプルで力強いメッセージを感じ取ることができる。

建築家らしいスタイリッシュな住宅や店舗も手がける高田さんだが、そのイメージとは真逆の柔らかい人柄で、気後れは不要。

じっくりと腰を据えて、家づくりを一緒に楽しんでくれるパートナーを探している方は、ぜひコンタクトを取ってみてほしい。


撮影: Satoshi Ikuma(TechniStaff)
  • 外部との繋がりを意識した玄関。アイアン、タイル、無垢の木、木毛セメント板など、剛と柔の素材感をMIXし、シンプルでありながら表情豊かな空間に仕上げている。

    外部との繋がりを意識した玄関。アイアン、タイル、無垢の木、木毛セメント板など、剛と柔の素材感をMIXし、シンプルでありながら表情豊かな空間に仕上げている。

  • スケルトン階段、その横の柱、外の庇を支える梁。いずれにも鉄を使い、木目を基調とした空間にシャープさを足してバランスを調整。無塗装であえてラフに仕上げたのもこだわりだ。

    スケルトン階段、その横の柱、外の庇を支える梁。いずれにも鉄を使い、木目を基調とした空間にシャープさを足してバランスを調整。無塗装であえてラフに仕上げたのもこだわりだ。

  • 2階ホールの眺めのいい場所を書斎として活用。梁と垂木の取り合い部に隙間を設けることにより天井が浮いて見え、水平方向に加えて、垂直方向への抜け感も同時に生み出している。

    2階ホールの眺めのいい場所を書斎として活用。梁と垂木の取り合い部に隙間を設けることにより天井が浮いて見え、水平方向に加えて、垂直方向への抜け感も同時に生み出している。

  • ホールとひと続きの子ども室&和室。用途を固定せず、生活スタイルの変化に合わせて使い方を変えていける。お子さんが小さい間は、和室を家族の寝室として利用していたそう。

    ホールとひと続きの子ども室&和室。用途を固定せず、生活スタイルの変化に合わせて使い方を変えていける。お子さんが小さい間は、和室を家族の寝室として利用していたそう。

  • 開く・閉じるのバランスが秀逸。開口の位置・大きさを吟味してプライバシーを守りながら、程よく生活の気配がにじむように設計することで「街に寄り添う」建築を目指した。

    開く・閉じるのバランスが秀逸。開口の位置・大きさを吟味してプライバシーを守りながら、程よく生活の気配がにじむように設計することで「街に寄り添う」建築を目指した。

基本データ

作品名
A-HOUSE / Fukuoka
所在地
福岡県福岡市
家族構成
夫婦+子供2人
延床面積
106.96㎡
予 算
3000万円台

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