時を重ねるほどに味わいを増す素材が
日常を包み込む住まい

札幌市に、自然素材に彩られた空間が特徴的な平屋住宅が誕生した。外壁に道南杉、光と風を取り込む窓にニヤトー、床や家具にナラ、天井にシナやヨシ、壁には札幌軟石が採用されている。すべての素材が光を受け、やさしい陰影をつくる──時を重ねるほどに味わいを増す素材が日常を包み込む住まいをご紹介しよう。

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ニヤトーの造作窓と公園の自然を
取り込むための工夫とは

この作品を手がけたのは、株式会社木戸脇匡志建築設計事務所の木戸脇匡志さん。長らく北海道で活動し、数年前に静岡へ移転。現在は全国で活動している。

お施主様から“隣接する公園の眺望を活かしてほしい”という要望があったため、公園の眺望を最も満喫できる位置に30帖を超えるLDKを配置。さらに、その眺望を最大限に楽しむことができる窓の計画が、重要なポイントとなった。

まず、南洋材で耐久性があり、空間に馴染みやすい素材として、ニヤトーを窓枠として採用した。ニヤトーの持つ独特の赤褐色は、インドネシアやスリランカなどの南国の雰囲気を彷彿とさせる。積雪の多い北国にあえて南国の雰囲気を取り入れることで、温かみのある空間となるように意識した。

LDKに面する間口7.2mの窓は、ヘーベシーべ窓を採用した。景観を最大限に満喫できるように、窓のサイズを極力大きなものにしたため、かなり重くなる。ヘーベシーベ窓は軽く動かせて密着度も高くなるので、断熱性能の面でも有効な選択たった。スッキリとした印象を持たせるため、窓枠は柱の裏面に隠し、網戸は柱と窓枠の隙間に埋めた。窓枠が温度差によって反った場合の対策など、メンテナンスへの配慮もされている。ノイズがないデザインでまとめることができたのは、造作窓だからこそだと言えよう。

和室の客間に面する窓は、腰掛けの高さに出窓空間を設け、ヌックとした。子どもたちの遊び場や庭を眺められる読書スペースとしても機能している。特徴的な横桟のルーバー網戸には、日射の遮蔽と通風の役割を持たせている。

寝室に面する窓は、庭を眺めるためのFIX窓と通風のために板戸を引き上げて確保する仕掛けを用意。ニヤトーの板戸は杉と比較して赤みがあるため、外観のアクセントになっている。

窓の位置とサイズは外壁材で使用した道南杉の板幅と合わせた。桟の細さや横桟のラインは、一つひとつ図面を描き込んで調整され、大工さんの高い精度によって実現できた逸品だ。目立つデザインではないが、緻密に計算された、建物全体の美しさを表す工夫の一つだと言える。
  • LDKの窓は間口7.2m。造作のヘーべシーべ窓を公園に向けて配置。両端をFIX、中央を開閉式とすることで、操作性と景色の連続性を両立した。網戸は柱の隙間に埋めて配置。シンプルでスッキリしたデザインだ

    LDKの窓は間口7.2m。造作のヘーべシーべ窓を公園に向けて配置。両端をFIX、中央を開閉式とすることで、操作性と景色の連続性を両立した。網戸は柱の隙間に埋めて配置。シンプルでスッキリしたデザインだ

  • 30畳を超える広いLDKの梁は、あえて2本に。1本だと太くなり、正面奥にある大きな窓に当たってしまう。2本だと廊下の上部に溶け込み、違和感がなくなる。美しさを追求したアイデアだ

    30畳を超える広いLDKの梁は、あえて2本に。1本だと太くなり、正面奥にある大きな窓に当たってしまう。2本だと廊下の上部に溶け込み、違和感がなくなる。美しさを追求したアイデアだ

  • 造作の窓は、場所によってすべて異なるデザインとした。同じ大きな窓が続くと、どの場所でも同じ景色となってしまう。部屋によって窓のデザインや配置を変えることで、窓から見える風景に変化をもたらす効果を狙った

    造作の窓は、場所によってすべて異なるデザインとした。同じ大きな窓が続くと、どの場所でも同じ景色となってしまう。部屋によって窓のデザインや配置を変えることで、窓から見える風景に変化をもたらす効果を狙った

  • 客間は腰掛け高さの出窓空間をヌックに。子どもたちの遊び場や、外を眺められる読書スペースとなった

    客間は腰掛け高さの出窓空間をヌックに。子どもたちの遊び場や、外を眺められる読書スペースとなった

図面だけでなく細やかな3DモデルとCGの
イメージ共有による素材の決定

冒頭で紹介した通り、本作品では多種多様な素材を採用している。ポイントとなるのは、やみくもに建築家の好みで素材を決めているのではなく、客観的に判断できる技術を使っている点だ。

細かくモデリングされた3Dデータに各種素材や、ある日時の光を当てて実際にどう見えるかをチェックしている。また、建物全体のトーンに合っていない素材がないか、質感や艶なども3Dデータで調整し、実際のサンプルも合わせて確認しているのだ。

こうした技術は、お施主様の要望に合わせて即座にモデルを修正したり、マテリアルを変えたりできるので、打合せ時にも積極的に活用している。

図面で空間をイメージするのは難しい。設計者が良い空間を探求するためにも必要な技術だが、お施主様にとっても“思っていたものと違う”という後悔をできる限り無くすことができるため、重要な役割を担っている技術だと言えよう。

注文住宅では、特徴的なデザインやプランが目を引くことが多い。しかし、実は外から見えにくい、このような細やかな調整こそが味わいのある家を創り上げ、お施主様家族が住まう喜びを感じられる要素となることを改めて感じさせてくれた。
  • 寝室に面する窓は、庭を眺めるためのFIX窓と通風のために板戸を引き上げて開放する仕掛けを組み込んだ

    寝室に面する窓は、庭を眺めるためのFIX窓と通風のために板戸を引き上げて開放する仕掛けを組み込んだ

  • 窓の横幅は外装材の道南杉の板幅と合うように細かく設計されている。大工さんの高い技術で実現できた

    窓の横幅は外装材の道南杉の板幅と合うように細かく設計されている。大工さんの高い技術で実現できた

  • サーカディアンリズムに基づく自動調光調色機能を備えた照明。明るさだけでなく、青み・赤みも時間帯に合わせて自動で調光・調色できる。朝の目覚めや良質な睡眠に、とても効果的な設備だ

    サーカディアンリズムに基づく自動調光調色機能を備えた照明。明るさだけでなく、青み・赤みも時間帯に合わせて自動で調光・調色できる。朝の目覚めや良質な睡眠に、とても効果的な設備だ

素材・普遍的な心地よさ・漂う気配
設計する時に大切にしているポイント

木戸脇さんは設計をする際、常にこだわっているポイントが主に3点あるという。

1点目は“空間に馴染む素材”。
足に触れる床材や手に触れる家具、あるいは毎日使う洗面台やキッチン、そして建築の印象を決める外装材。こうした素材がもつ香りや温かさや冷たさを感じながら空間を考える設計を大切にしているという。

素材にこだわる理由は、お施主様の個性が一番出せるからだ。「どのような空間が好きですか?」という質問だと、抽象的すぎて多くのお施主様は答えにくい。しかし素材の好みであれば、お施主様はイメージやすくなる。“石が好き、木が好き”など、お施主様の好みを的確に把握できるのだ。このため木戸脇さんは最初に、“マテリアルシート”と呼んでいるヒアリングシートで、そうした好みを把握するようにしているそうだ。

2点目は“普遍的な心地よさ”。
花や草木の季節による移り変わり、木漏れ日の揺らぎや水面を反射して映る光などは、どの時代でも、誰にとっても心地よいものだ。こうした普遍的な現象を、できる限り建築の中に取り入れていきたいと考えているそうだ。

そのため多くの作品で、設計初期段階に“庭”の存在や“庭の見え方”を検討するという。庭の広さはあまり重要ではなく、敷地に余裕がなければ小さな坪庭や中庭でもいい。そこにある“自然”を、いかに室内へ取り込むかが重要なのだそうだ。本作品でも庭だけでなく、公園の見え方にもこだわって設計されている。

3点目は“漂う気配”。
家事や仕事をしていても、どこかで家族の気配が感じられるような家。たとえば1階と2階で、あるいはリビングやキッチンと個室でつながりを感じる空間設計を心がけているという。

ここで重視しているのは、直接的に空間がつながっていることではなく、あくまでも“気配を感じられる”ことだ。ある作品では、中庭を介してその気配を感じられる設計とした。室内にいる家族が何かをしている気配を感じる。それだけで家族のつながりを実感できるのではないだろうか。この作品ではキッチンから、リビングや和室で遊ぶ子どもの気配を感じられるように設計されている。


素材にこだわり、自然の心地よさを感じ、家族の気配を感じられる住まい。そのような自宅を望む人は、いちど話を聞いてみてはいかがだろうか。



構造設計:秀構造設計
施工:株式会社生杉建設
写真:木戸脇匡志+Studio Superfly
  • 造作のキッチン。天板には傷がつきにくいクオーツストーン(人工大理石)を採用。引き出しの木材はオークで、床と同じ素材を使用。取手はウォールナットで、手触りの良さを追求した

    造作のキッチン。天板には傷がつきにくいクオーツストーン(人工大理石)を採用。引き出しの木材はオークで、床と同じ素材を使用。取手はウォールナットで、手触りの良さを追求した

  • 本作品に限らず、照明は最適なものを常に提案しているという。場所によって間接照明・スポットライトなどを組み合わせたり使い分けたりしている

    本作品に限らず、照明は最適なものを常に提案しているという。場所によって間接照明・スポットライトなどを組み合わせたり使い分けたりしている

  • 通常は柱に梁を乗せるが、この作品では丸い柱が天井まで伸び、梁を分断している。LDKの長辺が7.2mと長く、1本の梁では無理なので考え出されたアイデアだ。天井の高さを感じられるデザインも実現できた

    通常は柱に梁を乗せるが、この作品では丸い柱が天井まで伸び、梁を分断している。LDKの長辺が7.2mと長く、1本の梁では無理なので考え出されたアイデアだ。天井の高さを感じられるデザインも実現できた

  • 廊下の端に設けられた、大きな造作窓。明るさの確保だけでなく、一部は解放できるので換気にも役立っている

    廊下の端に設けられた、大きな造作窓。明るさの確保だけでなく、一部は解放できるので換気にも役立っている

基本データ

作品名
青葉の家
所在地
札幌市厚別区
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
446.5㎡
延床面積
189.69㎡

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