家族の気配を感じられ、プライバシーも確保
外と内の関係を最適化する、中庭の秘密とは

富山県小矢部市に、特徴ある平屋が完成した。三方を道路に囲まれ、整備された公園にも面する立地。近くに鉄道の高架があり、低層の住居や田畑に囲まれた敷地に建つこの作品は、周辺に溶け込みつつプライバシーも確保している。最大のポイントは中庭だ。外と内の関係を整え、計算しつくされたその詳細をご紹介しよう。

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外の景色を楽しみ、プライバシーも確保
これらを同時に実現できるプランとは

この敷地は東側以外の三方を道路に囲まれ、西側は道路を挟んできれいに整備された公園に接している。東側は田畑に接し、周辺には低層の住宅や鉄道の高架がある立地だ。

設計したのは、髙嶋頌介建築設計事務所の代表である髙嶋頌介さん。事務所は金沢市だが関西・関東・中部からの依頼も多く、全国で活動している。

髙嶋さんは、この作品の土地探しから関与していた。お施主様が納得する土地になかなか出会えない中、たまたま出会ったのがこの敷地だったのだ。幹線道路から外れ、住宅街でありながら田畑や公園に接している落ち着いた環境。売りには出ていたが、立て看板や情報がネットに出ていなかった物件だった。

お施主様からの主な要望は3点。

・平屋で広すぎない家がいい
→これは夫婦ともに医療関係者で、老後の生活までを視野に入れた要望だった

・意匠性を高めた家がいい
 →これはせっかく建築家に設計してもらうのであれば、一般的な建売住宅のようなデザインではない方が嬉しいという気持ちから出たものだった

・プライバシーを重視してほしい
 →これはセキュリティー面での要望で、外と内の関係性にも連動するものだった

上記のようにお施主様からは大きな要望はあったものの、細かな要望はなかった。むしろ“細かなことは言わないから他はすべて任せた”という雰囲気だったそうだ。

このような状況で、髙嶋さんはどのように基本プランを作り上げていったのか。

もっとも大きな影響を与えたのが、敷地を最初に見た時の印象だったという。

髙嶋さんは、その時の感想をこう語ってくれた。
「西側にある公園がきれいに整備されていたので、家から見える風景として取り込みたいと思いました。西日対策と道路からの視線を含むセキュリティー対策が課題でもあり、重要であると認識していました」。

「外と内の関係性を整理し、コントロールすることが一番のポイントだと最初から感じていました。敷地が広いので、どのようにこの敷地を使うかが大切だと思ったのです」。

こうした考えから導き出されたのが根本的なプランである、“ゾーニング”だった。次章でその詳細をご紹介しよう。
  • プランの核となる中庭。ここでコミュニケーションを取ることを想定して設計された。リビング側にはウッドデッキを設置。長く伸ばした庇もあるので、天候の影響を受けずにくつろぐことができる

    プランの核となる中庭。ここでコミュニケーションを取ることを想定して設計された。リビング側にはウッドデッキを設置。長く伸ばした庇もあるので、天候の影響を受けずにくつろぐことができる

  • 中庭は違和感なくコミュニケーションをとれる広さに。何度も図面上での計算や実地での検証を実施し、ベストな広さを導き出した

    中庭は違和感なくコミュニケーションをとれる広さに。何度も図面上での計算や実地での検証を実施し、ベストな広さを導き出した

  • きれいに整備された公園の景色を取り入れた、リビング窓からの風景。窓は外の道路から高さがあり、色付きのガラスも使用しているので日中は室内が見えにくい

    きれいに整備された公園の景色を取り入れた、リビング窓からの風景。窓は外の道路から高さがあり、色付きのガラスも使用しているので日中は室内が見えにくい

  • 現しの天井が美しいLDK。手前はお施主様から要望があった畳スペース。畳の下は収納で、壁側には足をおろして仕事もできるデスクが用意されている。ダイニングやソファに座る人と同じ目線の高さとなり、くつろげる場所があることが大切だという考えで設置された

    現しの天井が美しいLDK。手前はお施主様から要望があった畳スペース。畳の下は収納で、壁側には足をおろして仕事もできるデスクが用意されている。ダイニングやソファに座る人と同じ目線の高さとなり、くつろげる場所があることが大切だという考えで設置された

  • 家具や建具はほぼすべて造作。既製品では対応できないレベルの最適化を求めると、100%造作になるそうだ。たとえば写真左上の収納は、垂木の形にあわせて切り欠いた形状の家具を製作した。建築家の想いを具現化するための造作家具だ

    家具や建具はほぼすべて造作。既製品では対応できないレベルの最適化を求めると、100%造作になるそうだ。たとえば写真左上の収納は、垂木の形にあわせて切り欠いた形状の家具を製作した。建築家の想いを具現化するための造作家具だ

  • 造作キッチンの対面には造作カウンターも。お施主様が大好きな日本酒を楽しむためのものだ。当然ながら一体化され、色味や素材も統一されているのでまったく違和感はない

    造作キッチンの対面には造作カウンターも。お施主様が大好きな日本酒を楽しむためのものだ。当然ながら一体化され、色味や素材も統一されているのでまったく違和感はない

外側と内側の関係性を最適化する中庭
家族の気配を常に感じられるプラン作り

髙嶋さんが最初に考えたのが、敷地内でのパブリックとプライベートの分け方だった。特にセキュリティー面でのプライバシーを考えると、もっとも重要なポイントとなる。

敷地面積が広く、平屋だがある程度は自由に設計できる。そこで当初は建物をV字にする案や2棟に分ける分棟案などが考えられた。共通するのはパブリックとプライベートを分けるという、ゾーニングの考え方だ。

敷地内でゾーニングをするというコンセプトはお施主様も納得し、賛同してくれた。こうして最終的に行き着いたのが、“中庭を設けて建物をコの字とする案”だった。

中庭を中心に配置し、エントランスを挟んで左と右にパブリックとプライベートの空間を設ける。中庭側に大きな開口部を設けることで、必要以上に外側に窓などの開口部を設ける必要がなくなる。結果としてセキュリティーやプライベート面で安心できるプランとなるのだ。

髙嶋さんがもっとも注力したのが、公園側に位置するリビングと家の中心となる中庭の扱いだった。

リビングは公園側に面するため、その景色を室内に取り込みたい。しかし道路を挟んでいるため、必要以上に大開口の窓を設けることができない。

そこで考えたのが、リビングの窓の高さと位置だ。道路を歩く人からは室内が見えにくい高さに窓を設置し、日中は室内がほぼ見えないようにした。

中庭はパブリックスペースのLDKと、プライベートスペースの個室の間に位置する。必要以上に外側へ開かない反面、この中庭のスペースが内側のつながりを保つ空間となる。

そのため中庭の位置や広さには、徹底的にこだわった。敷地が広いため、物理的にはさらに広い中庭にすることもできたが、髙嶋さんは家の中のコミュニケーションや気配を感じられる広さにこだわった。

窓から見える様子や、声が届き会話ができる広さを考え、最終的な中庭の広さと位置が決定されたのだ。

結果的に、大きな開口部は公園側の窓のみとなった。しかし中庭側には大きな掃き出し窓が設けられ、それらはすべてカーテンなどがなく開け放されている。

こうして常に光と風が入る、快適な空間が誕生した。
  • 公園側から見た外観。周囲となじむように配慮されている。屋根の高さはできるだけ抑え、圧迫感を感じないように。外壁はガルバリウム。波トタンを横に貼り、高さを感じさせない。シルバー色は天候や周囲の緑を反射し、なじむものとなっている

    公園側から見た外観。周囲となじむように配慮されている。屋根の高さはできるだけ抑え、圧迫感を感じないように。外壁はガルバリウム。波トタンを横に貼り、高さを感じさせない。シルバー色は天候や周囲の緑を反射し、なじむものとなっている

  • キッチンのすぐ奥にある水回りからみた室内。天井高は強弱をつけ、高い天井高のLDKと比べて手前の水回りは低くし、空間の切り替えと変化を出している

    キッチンのすぐ奥にある水回りからみた室内。天井高は強弱をつけ、高い天井高のLDKと比べて手前の水回りは低くし、空間の切り替えと変化を出している

  • エントランスを入るとすぐ、正面の巨大な窓から中庭が見える。お客様が家の中や中庭にすぐ行きたくなる仕掛けだ。右側には多機能で広大な収納スペース。靴だけでなくコートなどの衣服、冬期の除雪用具なども収納できる

    エントランスを入るとすぐ、正面の巨大な窓から中庭が見える。お客様が家の中や中庭にすぐ行きたくなる仕掛けだ。右側には多機能で広大な収納スペース。靴だけでなくコートなどの衣服、冬期の除雪用具なども収納できる

  • 収納スペース側から見たエントランス。土間も含め、とても余裕がある空間であることがわかる。この余裕が子どものベビーカーや趣味のロードバイク、冬期の除雪道具を収納するのに役立つ

    収納スペース側から見たエントランス。土間も含め、とても余裕がある空間であることがわかる。この余裕が子どものベビーカーや趣味のロードバイク、冬期の除雪道具を収納するのに役立つ

  • 照明も同時に設計されている。ダイニングのペンダントライト以外はすべて間接照明。シンボリックな天井から、光が反射して注がれる計算だ

    照明も同時に設計されている。ダイニングのペンダントライト以外はすべて間接照明。シンボリックな天井から、光が反射して注がれる計算だ

  • 畳スペース奥の壁面には造作の本棚。斜めの垂木が水平の本棚につながるイメージ。本棚奥の壁面素材は、天井と同じ種類のもので統一感を出している

    畳スペース奥の壁面には造作の本棚。斜めの垂木が水平の本棚につながるイメージ。本棚奥の壁面素材は、天井と同じ種類のもので統一感を出している

要望がなくとも提案や工夫を重ねるのは
建物内外の関係を最適化するための姿勢

ここでお施主様の声をご紹介しよう。

「お客様から玄関ですぐに褒められることが多く、とても嬉しく思います」。
「公園で遊ぶ子どもとコミュニケーションをとれて、幸せな時間を過ごせています」。
「断熱性が高く、夏も冬も快適に過ごせています」。

確認しておきたい。お施主様は髙嶋さんに細かな要望をせず、ほぼお任せの状態だった。それにもかかわらず、これほどの高評価を得たのには理由があると感じた。それは、建築家の細かなこだわりだ。

たとえば、髙嶋さんはほぼすべての作品でお施主様の家族だけでなく、お客様がどう感じるかを考えるそうだ。

また、家具もほぼすべて造作で設置するという。既製品では対応できないレベルの最適化を求めると、どうしても造作になるそうだ。

見えない場所への配慮も抜かりない。断熱性が高いというコメントがあったが、この作品は平屋なので屋根裏への断熱材は通常の2倍ほど入れているという。

こうした建築家の熱意とこだわり、工夫が具現化したのがこの作品だと言えるだろう。要望がなくとも、建築家から多くの提案をしていることが実は重要なポイントだ。

この他にも、様々な工夫が各所に取り入れられている。ぜひ、写真の説明文もご参照いただきたい。

近隣との関係を重視する方や、外と内の関係やバランスを重視したい方、そして多くの提案を希望する方には、特に心強いパートナーとなるのではないだろうか。

興味を持たれた方は、いちどコンタクトしてみることをお勧めしたい。


撮影者:鶴⾒哲也
  • 東側から見た外観。田畑に隣接しているようだが、境界から3m離してある。将来、田畑側に家が建っても問題がないようにという配慮だ

    東側から見た外観。田畑に隣接しているようだが、境界から3m離してある。将来、田畑側に家が建っても問題がないようにという配慮だ

  • 外観夕景。車が曲がる際の視線確保を考え、外構はシンプルで高い樹木などは植えていない。安全への配慮だ

    外観夕景。車が曲がる際の視線確保を考え、外構はシンプルで高い樹木などは植えていない。安全への配慮だ

  • 南側から見た外観夕景。玄関からの庇はカーポートに続く。雨や雪の日に助かる配置だ。庇があるので玄関前に雪が落ちず、特に冬期には助かる設計だ

    南側から見た外観夕景。玄関からの庇はカーポートに続く。雨や雪の日に助かる配置だ。庇があるので玄関前に雪が落ちず、特に冬期には助かる設計だ

  • エントランスはシャープさを表現するため、手摺や樋も造作で製作。雨や雪を防ぐ設計であることがわかる

    エントランスはシャープさを表現するため、手摺や樋も造作で製作。雨や雪を防ぐ設計であることがわかる

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
OMH
所在地
富山県小矢部市
家族構成
夫婦+子供1人
間取り
3LDK
敷地面積
295.57㎡
延床面積
115.94㎡