曲面効果で外の光や緑を室内に取り込みたい
使い勝手とデザイン性も追求したフルリノベ

東京都大田区に、築44年のマンションをリノベーションした一室が誕生した。丘の上に建つため眺望は抜群だが、建築当時の構造やレイアウトのままでは使い勝手に問題がある物件。対策として考えられたのが、曲面を多用したフルリノベーションだ。外の光と緑を室内に取り込み、快適さを追求したこの作品をご紹介しよう。

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都心では貴重な眺望と環境を満喫し、
築44年の古さを克服するフルリノベ

この作品を手がけたのは、株式会社中島成隆建築設計事務所の代表、中島成隆さん。これまで全国の公共施設や宿泊施設を数多く手がけ、2026年の1月に会社を法人化して独立した。

この作品は中島さんの自邸で、築44年のマンションをフルリノベーションしたものだ。

マンション購入の決め手は予算の他に、窓からの眺望だったそうだ。丘の上に建ち、ベランダ側が急な傾斜地となっているために視界を遮る建物がない。建物がないので、外からの視線を気にすることもない。さらに、1階なので眼前の緑が目に入り、1階なのに遠くまで見渡すことができる眺望を楽しむことができる。東京23区内でこの環境は貴重なものだ。

一方で、築44年のマンション特有の課題や問題点もあった。もっとも気になった点は、構造だ。現代のものと比べて、室内に大きく梁や柱が張り出している。当時の建築技術ではこれが標準的なものだったので致し方がないが、梁の張り出しは気になり、柱の張り出しは家具の配置などで不便だ。また、和室がベランダ側の明るい場所にありキッチンが中央の暗い場所にあるなど、当時は一般的だったレイアウトにも使い勝手の面で問題があった。

そこで中島さんは、フルリノベーションを決意。

奥様からの要望は、“キッチンを明るい場所に移動させてほしい”というものと、“ダイニングスペースは不要で、代わりに対面で食事ができるカウンターテーブルがあると嬉しい”というものだった。

中島さんは“外部に見える緑や空を、できるだけ室内に取り込みたい”と考えた。“外と内を近づける”、あるいは“外と内の境界を曖昧にする”と言い替えることもできるだろう。

この部屋はマンションの中住戸で、廊下側からの採光はあまり期待できない。採光がベランダ側からの1方向という限定された条件の中で何ができるかという、テストケースにもなる。

こうして、フルリノベーションのプラン作りが始まった。
  • 低く横に長い窓が景色を切り取っているように見える開口部。その景色と光を最大限に活かすために採用された、窓の上の曲面と窓の下の小上がり。美しさだけでなく、部屋の奥まで光と外の色を引き込む効果を狙った

    低く横に長い窓が景色を切り取っているように見える開口部。その景色と光を最大限に活かすために採用された、窓の上の曲面と窓の下の小上がり。美しさだけでなく、部屋の奥まで光と外の色を引き込む効果を狙った

  • 窓の上の曲面は銀色に塗られ、光と緑や空の色を反射して室内に取り込む

    窓の上の曲面は銀色に塗られ、光と緑や空の色を反射して室内に取り込む

  • すぐ外のあふれる緑と対比し、異なる世界観を作るために塗られた壁や柱。室内に飛び出している梁(写真右上グレー部分)はそのままだと目立つので、梁と同じ高さまで隣の天井を下げて違和感をなくしている

    すぐ外のあふれる緑と対比し、異なる世界観を作るために塗られた壁や柱。室内に飛び出している梁(写真右上グレー部分)はそのままだと目立つので、梁と同じ高さまで隣の天井を下げて違和感をなくしている

  • リビングの入口側(写真奥)を横切る梁にあわせ、隣接する入口側の天井は同じ高さに。梁が目立たなくなるだけでなく、入口側とリビングの空間を切り替える効果もある

    リビングの入口側(写真奥)を横切る梁にあわせ、隣接する入口側の天井は同じ高さに。梁が目立たなくなるだけでなく、入口側とリビングの空間を切り替える効果もある

曲面効果で光の拡散と取り込みを実現
梁や柱の張り出しも気にならないプラン

まずはプランの核とも言える、“外と内の境界を曖昧にする”方法についてご紹介しよう。

この住戸は構造躯体の梁が窓の上にあり、さらに窓が床から少し立ち上がっていたために低い横長の開口部になっていた。

古いマンションによくある構造だが、その窓が壁の中に収まっている姿は窓の外の景色を切り取っているようにも見える。そこで中島さんは逆光になっている梁や壁の影をなくすことで、より外と内を近い距離にできるのではないかと考えた。

影をなくすための方法を考えた結果、たどり着いたのが曲面の活用だった。窓の上に梁を覆って天井まで続く曲面の壁を設け、窓際の床には曲線を描く小上がりを設けた。

また、キッチンカウンターに“サイクロイド曲線”を採用したのも重要なポイントと言えるだろう。専門的な説明は省略するが、サイクロイド曲線とは直線上で円を転がした時に、円周上の一点が描く軌跡を指す。建築におけるサイクロイド曲線は美しさだけでなく、自然光の拡散や雨水の効率的な排水など機能的な目的でも活用されている。

この曲面により、自然光を室内へゆるやかに届けることに成功した。また、影を作らずに、できる限り長く奥まで光を届けることが可能になった。外の緑や空の青を映しこみ、反射するように計算されている。

梁は曲面で覆うことで気にならなくなったが、柱の張り出しはどうするか。中島さんの答えは、柱に色を塗ることだった。

壁と同じ白のままだと、張り出した柱は強調されて目立ってしまう。しかしその面に色を付けることで、柱ではない“なにか”にも見え、違和感が弱まるのだ。窓から見える緑と調和するように、外を見る時はグリーン、内側を見る時にはピンクやブルーなどの色を塗ることで、違う世界観を作り違和感を軽減した。

また、色を塗ることで単純な白とは違い、愛着が湧く点も重要だろう。奥様も最初は色を塗ることに疑問を持っていたが、実際に仕上がりを見て満足しているそうだ。

また、リビングの張り出した柱の前には、造作のソファを配置。柱がソファの中に取り込まれるような作りで一体感と違和感の軽減を図っている

キッチンもご紹介しておこう。奥様の要望をすべて実現し、キッチンには大きな対面カウンターを備えたものを造作で設置した。

ちなみにキッチンだけでなく、この作品の家具はすべて造作だ。この作品に限らず、中島さんは必要に応じて造作家具を作るケースもよくあるそうだ。特に用途やサイズにこだわりがある時に造作家具を採用するという。このキッチンの高さも、キッチン後ろの収納棚も、奥様の身長にあわせて作られた。

ここでご紹介した以外にも、各所にこだわりと工夫が詰まっている。ぜひ写真の説明文もご参照いただきたい。
  • 造作キッチンは対面カウンター付き。サイクロイド曲線が採用されている。奥様の希望でキッチンは暗めの配色。キッチン・リビングの天井は内装を取り払った躯体なので、フードや照明を取り付けるためのキッチン用天井を設けた。上部空間が低くなり、落ち着く効果も生まれた

    造作キッチンは対面カウンター付き。サイクロイド曲線が採用されている。奥様の希望でキッチンは暗めの配色。キッチン・リビングの天井は内装を取り払った躯体なので、フードや照明を取り付けるためのキッチン用天井を設けた。上部空間が低くなり、落ち着く効果も生まれた

  • キッチンカウンターの吊り下げ天井に、プロジェクターが設置されている。ソファ側に広がる壁面に投影し、スポーツや映画などを見るのが中島さんのお気に入り。ニュースなど通常の番組を見るためのテレビもキッチン側の壁に設置されている

    キッチンカウンターの吊り下げ天井に、プロジェクターが設置されている。ソファ側に広がる壁面に投影し、スポーツや映画などを見るのが中島さんのお気に入り。ニュースなど通常の番組を見るためのテレビもキッチン側の壁に設置されている

  • 眼前に広がる緑を美しく映し出す、対面カウンター。天板は人造大理石に見えるが大判タイル製だ

    眼前に広がる緑を美しく映し出す、対面カウンター。天板は人造大理石に見えるが大判タイル製だ

  • 手洗い・浴室・トイレが集まり、動線に配慮された水回り。このエリアもすべて造作家具だ。手洗いの天板は対面カウンターの天板を作った時の端材。同じ素材なので統一感も感じられる。配色は汚れが目立たず、落ち着いた空間とするためにグレーで統一した

    手洗い・浴室・トイレが集まり、動線に配慮された水回り。このエリアもすべて造作家具だ。手洗いの天板は対面カウンターの天板を作った時の端材。同じ素材なので統一感も感じられる。配色は汚れが目立たず、落ち着いた空間とするためにグレーで統一した

  • 将来、子ども部屋として使用することを想定した廊下側の部屋。他の部屋と同じく、曲面と柱の塗装が施されている。寝室と異なり、色は明るいピンク。窓から入る光が少ないため、明るい間接照明の光が曲面沿いに広がるように計算されている

    将来、子ども部屋として使用することを想定した廊下側の部屋。他の部屋と同じく、曲面と柱の塗装が施されている。寝室と異なり、色は明るいピンク。窓から入る光が少ないため、明るい間接照明の光が曲面沿いに広がるように計算されている

一番大切なのは、使い勝手の良さ
デザイン優先のプランは作らない

最後に、中島さんがいつも大切にしていることをご紹介しよう。プラン作りでもっとも大切なのは、“使い勝手の良さ”で、デザインの優先順位はその次になるというものだ。しかし要望があれば、使い勝手の良さを実現した上でデザイン性を追求するそうだ。

この作品でも曲面を多用したり、ピンクなどの色を柱に塗ったりしている。一見すると、デザインを重視する建築家の作品のようにも見える。しかし先述した通り、それらには意味があり、理由がある。決してデザインありきのプランではないのだ。

たとえばこの作品では、キッチン以外のレイアウトは大きく変えていない。フルリノベーションの場合、極端に部屋数を減らして広いワンルームにする例を見かける。しかし中島さんは、そのような手法は取らないという。寝室など、目的がはっきりしている部屋がある方が日常での使い勝手が良いからだ。

また、将来の子供部屋はウォークスルークローゼット兼ワークスペースを介してリビングとつながっている。個室が必要になるまでは通り抜けられる場所として、使い方に自由度をもたせているのだ。

リビングの小上がりの高さは腰掛けたり子どもが登って遊べる高さに設定されている。計算した最適な高さの小上がりが、他の目的でたまたま曲線になっているという順序なのがおわかりいただけるだろう。

そして“外と内を近づける”、あるいは“外と内の境界を曖昧にする”ことを意識しているそうだ。家の中で外を感じることが、毎日の暮らしの中でとても重要だと考えるからだ。

臨機応変で柔軟な対応も、中島さんの特徴のひとつだと言えるだろう。この作品では当初、トイレの位置を違う場所で考えていた。しかし現場で内装を解体した際、配管の制約で無理なことがわかり、すぐに現在の案に変更された。

もちろん奥様はすべての要望が実現され、満足しているという。当初はピンク色の壁を懸念していたが、住んでみると子どもの写真が華やかになるため気に入っているそうだ。

使い勝手が良く、その上で希望すればデザインにこだわることや多くの提案をしてくれる建築家をお探しの方は、一度コンタクトしてみてはいかがだろう。
  • 廊下の天井と壁はラワン合板。薄暗いトンネルを通って明るいリビングへ行く、イメージの対比を狙った

    廊下の天井と壁はラワン合板。薄暗いトンネルを通って明るいリビングへ行く、イメージの対比を狙った

  • 玄関の収納スペース。ベビーカーを気軽に回転させて収納できるよう、上がり框は金属製で曲線になっている

    玄関の収納スペース。ベビーカーを気軽に回転させて収納できるよう、上がり框は金属製で曲線になっている

  • 廊下側に配置されている寝室。こちらも梁と柱が飛び出している。リビングと意匠を合わせ、曲面と柱をグリーンに塗ることで違和感を減らした。窓側に造作テーブルを配置することで、柱の飛び出し感をさらに低減。テーブルはベンチにもなる高さだ

    廊下側に配置されている寝室。こちらも梁と柱が飛び出している。リビングと意匠を合わせ、曲面と柱をグリーンに塗ることで違和感を減らした。窓側に造作テーブルを配置することで、柱の飛び出し感をさらに低減。テーブルはベンチにもなる高さだ

  • 寝室の窓側曲面下部には、遮光ロールカーテンを組み込んでいる。廊下から人の気配がわからない機能も持つ

    寝室の窓側曲面下部には、遮光ロールカーテンを組み込んでいる。廊下から人の気配がわからない機能も持つ

間取り図

  • 改修後

  • 改修前

基本データ

作品名
馬込の抽象
所在地
東京都大田区南馬込
家族構成
夫婦+子ども1人
延床面積
72.03㎡