建築家の純度100%の理想が引き寄せた
機能と意匠が響き合う極上の八ヶ岳の別荘

八ヶ岳の森に心地よく浮かぶ船のような別荘。富士山を望む大開口やアートが溶け合う洗練された空間は目を奪う美しさだが、本質はそれだけではない。厳しい自然環境の中で驚くほど快適に過ごせるよう、徹底的にノイズを削ぎ落とした意匠など、細部にまで建築家・佐野さんの技とこだわりが凝縮されている。ただ美しいだけでなく、高い機能性と上質な意匠が奇跡的なバランスで響き合う、極上の一棟の全貌に迫る。

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ゼロから紡いだ、土地に最適なプランが
「求めていたのはこれ」と施主の心に刺さる

八ヶ岳連峰の東山麓、標高1,400m〜1,800mのなだらかな斜面に広がる別荘地の一角。そこには、森に浮かぶ「船」をイメージさせる、独特の浮遊感をまとった建物がある。

一歩中へ入りリビングに佇めば、大開口に切り取られた木々の緑の先に、雄大な富士山が姿を現す。選び抜かれた上質な家具やインテリア、そして空間を彩るアート。その洗練された内装に身を委ねていると、時の経つのも忘れてしまうほどだ。

この美しき別荘を手掛けたのは、PRIVATE建築設計事務所の佐野優子さん。彼女にとってこの建物は、建築家人生における大きな転機となった記念碑的な一棟だという。
かつてアトリエ系建築事務所で、住宅や別荘、大型施設などの設計をバリバリと手掛けてきた佐野さん。確かな実績と経験を積み上げてきたが、結婚・出産を機に、任される仕事の質やワークライフバランスに変化が生じる。そのジレンマの中で彼女が下した決断が、「独立」だった。

とはいえ、最初から見込み客があったわけではない。ゼロからのスタート。それでも「どんなに小さな仕事でも、自分の力で掴み取っていこう」という強い覚悟を抱いていた佐野さんの脳裏に、ある記憶が蘇る。それこそが、自らの建築の原風景だった。

それは幼少期から慣れ親しんだ、祖父の別荘がある地域の景色。森の中にひっそりと佇む建物や、アートのような佇まいを見せる高級建築の数々が、少女だった彼女の心に深く焼き付いていた。

その地は思い出の場所であると同時に、今なお足を運ぶ現在進行形のフィールドでもある。だからこそ佐野さんは、地域の厳しい冬の寒さも、積雪のリアルな性質も肌感覚で知り尽くしている。「その土地のポテンシャルを極限まで引き出す」という建築家としての原点。そして「この場所に最適な建物は何か?」という飽くなき問い。

自らのポリシーと情熱を証明するため、佐野さんは行動に出た。別荘のへ運営会社の事務所へ赴き、「この土地に最適なプランと模型を、無料で提案させてほしい」と直談判したのだ。その熱意に動かされた運営会社の担当者は、馴染みの建築家の枠を超え、快くチャンスを差し出してくれた。

舞台となったのは、道路から崖側へと傾斜していく1つの区画。
この地で佐野さんが導き出した答えは、富士山が見える景色を独り占めできる大開口のリビングだった。ダイナミックな眺望を堪能できる設計でありながらも、別荘地としての景観に配慮し、道路側からは高さを抑えた平屋のように見せる。一方で、崖側に向かってせり出すシャープな外観で「浮遊する船」を表現した。さらに、厳しい自然環境を知るプロとして、雪対策を考慮した深い庇(ひさし)を持つ日本の伝統的な屋根形状を融合させる。
建築家としての原体験とポリシー、そして情熱を注ぎ込んだ「ここにしかない、ここにあるべき」純度100%のプランが、こうして産声を上げた。
  • 八ヶ岳の大自然中に佇むK邸。晴れた日には遠く富士山が見える。

    八ヶ岳の大自然中に佇むK邸。晴れた日には遠く富士山が見える。

  • 水平に伸びやかで、地面から少し浮いたような長方形の佇まいは、船をモチーフに。外壁は周囲にマッチするよう、硬質で耐久性の高い「セランガンバツ」を採用。

    水平に伸びやかで、地面から少し浮いたような長方形の佇まいは、船をモチーフに。外壁は周囲にマッチするよう、硬質で耐久性の高い「セランガンバツ」を採用。

  • 夜になると、室内の明かりが光のラインとなり、幻想的な雰囲気に。寄棟の屋根は、大きな庇を生む。

    夜になると、室内の明かりが光のラインとなり、幻想的な雰囲気に。寄棟の屋根は、大きな庇を生む。

  • 足元の地窓から漏れる玄関照明の光が、幻想的な雰囲気を演出。正面に貼られた表情豊かな石材のアクセントウォールは、実用的な薪の保管スペースを目隠しする役割も兼ねる。

    足元の地窓から漏れる玄関照明の光が、幻想的な雰囲気を演出。正面に貼られた表情豊かな石材のアクセントウォールは、実用的な薪の保管スペースを目隠しする役割も兼ねる。

  • 道路側からは想像もつかないダイナミックな印象。大窓であっても森に囲まれているので解放感を存分に味わえる。

    道路側からは想像もつかないダイナミックな印象。大窓であっても森に囲まれているので解放感を存分に味わえる。

  • 自転車もゆったりと置ける広々とした土間スペース。愛犬の足洗い場も設けられており、ペットとの暮らしを快適にする配慮も忘れていない。

    自転車もゆったりと置ける広々とした土間スペース。愛犬の足洗い場も設けられており、ペットとの暮らしを快適にする配慮も忘れていない。

八ヶ岳の大自然が目の前に。サッシやロールスクリーンを隠す、柱や手すりは細くといった、景色のノイズになるものを極力排した、細かな配慮の積み重ねにこそ、佐野さんの設計の真骨頂。

おしゃれで洗練された家具やアートの数々。建築家である佐野さんが構築した完璧な骨組みに、Kさんが信頼を寄せるインテリアコーディネーターの感性が混ざり合い、ハイレベルで融合した果実だ。

富士山を独り占めする大開口と
建築にアートが融合する洗練の空間

こうして完成を迎えたK邸の全貌を見ていこう。
別荘地内の美しい道路を進んでいくと、ウッディーな外観を持つ、平屋のような建物が姿を現す。水平に伸びやかで、地面から少し浮いたような長方形の佇まい。それこそが、森を海に見立ててデザインされた、佐野さんの代名詞とも言える「船」のモチーフだ。「道路側からの高さを抑えたかった」という言葉通り、建物は周囲の豊かな緑の中に心地よく溶け込んでいる。

「外壁には、周囲の環境に自然と馴染むように木材を使いたいと考えていました。そこで、経年変化でも劣化しにくく、非常に硬質で耐久性の高い『セランガンバツ』を採用しています。歳月を経て風合いが変わっていくのも、この建物の大きな魅力の一つです」と佐野さんは語る。

意匠の美しさだけでなく、この地域の気候を知り尽くしている佐野さんだからこその配慮は、屋根の形状にも表れている。あえて日本家屋でよく用いられる「寄棟(よせむね)」を採用。庇を大きくせり出させることで、夏の高い日差しは遮り、冬の低い陽光は室内の奥まで導く設計とした。さらに、この深い庇の下の空間はデッキや通路となり、雨や雪の季節であっても快適に行き来できる。

一見すると道路側に走る1本の美しい横長スリットに見える窓も、すべての部屋に効率よく光を届けるためのもの。細かなサッシの分割を1つの連続した横長窓に見せるなど、ノイズを削ぎ落とす細部へのこだわりが、外観の洗練度をいっそう際立たせている。

駐車スペースから森の奥へ進むようにして、エントランスへ。足元の地窓から漏れる玄関照明の光が、幻想的な雰囲気を演出している。正面に貼られた表情豊かな石材のアクセントウォールは、実用的な薪の保管スペースを目隠しする役割も兼ねる。上部を一部くり抜き、室内へと軒が続いているかのように見せる演出も見事だ。

扉を開けて玄関に足を踏み入れると、そこは自転車もゆったりと置ける広々とした土間スペース。愛犬の足洗い場も設けられており、ペットとの暮らしを快適にする配慮も忘れていない。

そして、さらに扉を開けてメインリビングへ入った瞬間、なんとも贅沢な光景が目に飛び込んでくる。視界を埋め尽くす木々の先、その真正面に、あの雄大な富士山が座しているのだ。訪れた人は誰もが思わず「おおー」と感嘆の声を漏らすに違いない。

このダイナミックな抜け感は、単にロケーションの恩恵だけではない。サッシ部分を極力視界から消し去るため、床から天井までが1枚の大きなガラスになるよう緻密に計算されている。さらに、構造を支える柱やバルコニーの手すりに至るまで、安全性を担保しつつ、景色のノイズにならない極限の細さを追求した。ロールスクリーンを天井裏に完全に収納する構造など、こうした目立たない細かな配慮の積み重ねにこそ、佐野さんの設計の真骨頂がある。

リビングを彩るのは、おしゃれで洗練された家具やアートの数々。建築家である佐野さんが構築した完璧な骨組みに、Kさんが信頼を寄せるインテリアコーディネーターの感性が混ざり合い、ハイレベルで融合した果実がここにある。
  • 晴れた日には、真正面に、雄大な富士山が。訪れた人は誰もが思わず「おおー」と感嘆の声を漏らすに違いない

    晴れた日には、真正面に、雄大な富士山が。訪れた人は誰もが思わず「おおー」と感嘆の声を漏らすに違いない

  • 空間の主役として据えられた薪ストーブは、暖房だけでなく(暖房は床下のオイルヒーターで)、炎のゆらめき、薪のはぜる音、木が焼ける香りなど、人間の五感を優しく満たすための最高のアクティビティ。

    空間の主役として据えられた薪ストーブは、暖房だけでなく(暖房は床下のオイルヒーターで)、炎のゆらめき、薪のはぜる音、木が焼ける香りなど、人間の五感を優しく満たすための最高のアクティビティ。

  • 壁にはニッチを設け、愛犬のエサ置き場に。床も滑らない素材のタイルをはった。愛犬とともに極上空間で過ごす時間は、何ものにも代えられない豊かさだ。

    壁にはニッチを設け、愛犬のエサ置き場に。床も滑らない素材のタイルをはった。愛犬とともに極上空間で過ごす時間は、何ものにも代えられない豊かさだ。

  • リビングの先にある和室の入口は、格子戸で。まるで別世界への入口のよう。

    リビングの先にある和室の入口は、格子戸で。まるで別世界への入口のよう。

  • 落ち着きのある和室は。作家の卓越した筆致により、水墨画のように仕上げられた襖絵や壁のテクスチャーは、コーディネーターがセレクトしたもの。床には昇降式のテーブルが埋め込まれるなど、圧倒的な上質感の中に優れた利便性を兼ね備えている。

    落ち着きのある和室は。作家の卓越した筆致により、水墨画のように仕上げられた襖絵や壁のテクスチャーは、コーディネーターがセレクトしたもの。床には昇降式のテーブルが埋め込まれるなど、圧倒的な上質感の中に優れた利便性を兼ね備えている。

  • 琉球畳を市松に敷いた和室は、まるで森の景色を切り取ったかのような一面の大窓が穿たれている。

    琉球畳を市松に敷いた和室は、まるで森の景色を切り取ったかのような一面の大窓が穿たれている。

寒冷地という土地柄に配慮し、キッチンは独立型に。個室化することで、冬場の不在の期間でも、床下に設置された暖房を24時間稼働させ、水道凍結などを防ぐという。

ホテルライクな洗面・バスルーム。お風呂からも景色が楽しめ露天風呂気分を味わえる。

寝室への扉の横には、愛犬用の寝床スペースへの入口を。

シックでおちついた印象の寝室。「寝室には入れたくないが、一緒にはいたい」というKさんの要望に応え、写真左側の棚の一部が愛犬の寝床となっている。

基本データ

作品名
富士山を望む八ヶ岳の家
施主
K様
所在地
長野県南佐久郡
敷地面積
1100.49㎡
延床面積
170.75㎡
予 算
8000万円台