過去の記憶を未来につなぐ
古都・麗江の高原リゾートホテル

世界遺産・麗江(リージャン)古城の登録区域に含まれる白沙村。「玉龍雪山」の風光明媚な景観、水路が巡る古都の街並みに調和するリゾートホテル「青普麗江白沙リトリート」を設計した建築家の堤さんに、同プロジェクトにまつわるストーリーを伺った。

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美しい雪山と集落の風景を享受し
土地の記憶に触れるリトリート空間

中国南部の名峰「玉龍雪山」の麓に広がる、麗江・白沙村。世界文化遺産に登録されている旧市街「麗江古城」から車で20分ほど離れた、少数民族・ナシ族の伝統的な木造民家が建ち並ぶ、牧歌的な農村地帯である。

その白沙村に遺されていた古民家を増改築し「青普麗江白沙リトリート」へ生まれ変わらせたのが、東京・北京の二拠点で「一級建築士事務所 堤由匡建築設計工作室」を主宰する堤さん。

「都市部で生活する若者が余暇を楽しむ、ほっと心が安らぐリゾート空間を」というコンセプトのもと、北京のリゾート開発会社が複数の建築家を招聘したプロジェクトに唯一の日本人として参加した建築家だ。

「クライアントや数名の建築家とともに雲南省の候補地を視察し、各地の村落の風土や風習を学んだ上で、どのような建築が可能かを議論しました。白沙村を訪れた際には、世界遺産『玉龍雪山』の風景をいかに享受するか、現地で採れる五花石などの素材をどう活かすのかをレポートにまとめて提出。その提案を評価され、白沙村の担当として設計を任せていただくことになりました」。

五花石の外壁と瓦屋根が美しい4棟の既存のナシ族民家と古い大門を再利用しつつ、周辺部に拡張された敷地を活用してゲストルームを全20室へと増築し、新旧の建物の融合によって誕生した「青普麗江白沙リトリート」。

「玉龍雪山」の景色をさまざまな場所から楽しめる非日常空間に癒されつつ、この地にあった集落や人々の営みの記憶に触れる。そんな特別な滞在体験はどのような方法で生み出されたのだろうか?
  • 観光街・麗江古城から少し離れた場所にある、ナシ族の古都・白沙村。伝統的な民家が建ち並ぶ集落からインスピレーションを広げ、古民家をリゾートホテルへと再編集した

    観光街・麗江古城から少し離れた場所にある、ナシ族の古都・白沙村。伝統的な民家が建ち並ぶ集落からインスピレーションを広げ、古民家をリゾートホテルへと再編集した

  • 既存の木造部と新築するRC・木造の混構造部が違和感なく混じり合うよう、4つの建物が中庭を囲む伝統的な住宅様式「四合院形式」を踏襲しながら新築部を展開

    既存の木造部と新築するRC・木造の混構造部が違和感なく混じり合うよう、4つの建物が中庭を囲む伝統的な住宅様式「四合院形式」を踏襲しながら新築部を展開

  • 古くから神聖な山として崇められてきた、世界自然遺産「玉龍雪山」を見晴らす絶好のロケーション。季節・天候・時間帯によって変化する多彩な表情も滞在中の楽しみとなる

    古くから神聖な山として崇められてきた、世界自然遺産「玉龍雪山」を見晴らす絶好のロケーション。季節・天候・時間帯によって変化する多彩な表情も滞在中の楽しみとなる

  • 「玉龍雪山」を望む高原都市・麗江。雪解け水が山から集落、さらに敷地内へと流れ込むイメージとともに、街の中に水路が巡る風景を敷地内で再現した

    「玉龍雪山」を望む高原都市・麗江。雪解け水が山から集落、さらに敷地内へと流れ込むイメージとともに、街の中に水路が巡る風景を敷地内で再現した

  • 粗く積んだ五花石の壁に市松積を混在させ、伝統とモダンが融合した空間をデザイン。奥にいくほどに幅を持たせた台形のブロックを積み、立体感のある美しい市松模様を描き出している

    粗く積んだ五花石の壁に市松積を混在させ、伝統とモダンが融合した空間をデザイン。奥にいくほどに幅を持たせた台形のブロックを積み、立体感のある美しい市松模様を描き出している

規則性と不規則性。そのズレが生む
多彩な居場所から雪山を見晴らす

既存部と新築部の融合にあたって堤さんがまず意識したのが、周囲の集落との調和。

現地調査の結果、既存部は4つの建物が中庭を囲む中国の伝統的な住宅様式「四合院形式」で配置されていることに気がついたという。

「集落の街並みはてり(反り)のある瓦屋根が交互に並び、心地よいリズムを刻んでいました。我々の設計する建築もそのリズムに同調すべく、既存の4棟を起点に規則的に屋根を配置し『四合院形式』を踏襲することで、周囲の街並みとの調和を図っています」と堤さん。

四合院の配置を意識する一方で、白沙村を象徴する五花石の石積みの建物は、ソリッドな立方体をでっぱらせたりずらしたりとあえて動きをつけながら積み重ねたのが特徴。

「ランダムに配置した石積みのボリュームある建物の上に伝統的な切妻屋根をかぶせることで不規則性と規則性がぶつかり、そのズレから生じる『間』を多様な居場所として機能させる狙いがありました」と説明するように、敷地内には立ち止まりたくなる空間の余白があちこちに生まれている。

「麗江において『玉龍雪山』は信仰の対象であり、現地住民も旅行者も常にどこに雪山が見えるかを気にしています。私も滞在中その眺めに心惹かれ、存在が感じられるだけで安心感を得られるようになっていました。そんな体験からすべてのゲストルームに専用テラスを設けるとともに、パブリックなプラットホーム(展望スペース)を自由に配置することにしたのです」。

ベッドに寝転んで窓から景色を見晴らしたり、外に出て歩き回りながら、お気に入りの展望スポットを見つけたり。

点在する居場所を回遊し、さまざまな様相の「玉龍雪山」の存在を身近に感じる。それこそが堤さんが伝えたかったこの土地の魅力であり、唯一無二の体験価値なのだ。
  • 「生きた文化財」としてナシ族の間で今も受け継がれる手漉き紙「トンパ紙」を合わせガラスで挟み、木格子を添えた光壁。放射状に広がる柔らかな光が空間をやさしく包み込む

    「生きた文化財」としてナシ族の間で今も受け継がれる手漉き紙「トンパ紙」を合わせガラスで挟み、木格子を添えた光壁。放射状に広がる柔らかな光が空間をやさしく包み込む

  • ランダムな石のボリューム群を設定しつつ規則的に屋根を配置することで、周囲との調和を図った外観。テラスとともに軒下の半屋外スペースも眺望を楽しむ空間として機能する

    ランダムな石のボリューム群を設定しつつ規則的に屋根を配置することで、周囲との調和を図った外観。テラスとともに軒下の半屋外スペースも眺望を楽しむ空間として機能する

  • 最も印象的な景色を切り取れるよう、ゲストルームの位置に合わせて開く方向を吟味。同客室は農村を見晴らす方角に大きな窓を設け、ベッドもそちらに向けてレイアウトした

    最も印象的な景色を切り取れるよう、ゲストルームの位置に合わせて開く方向を吟味。同客室は農村を見晴らす方角に大きな窓を設け、ベッドもそちらに向けてレイアウトした

  • 間接照明に浮かび上がる五花石の美しい石壁が見る者を圧倒。伝統的な石積みの重厚感と市松積の壁の抜け感のバランスによって、空間に奥行と多様性が生まれている

    間接照明に浮かび上がる五花石の美しい石壁が見る者を圧倒。伝統的な石積みの重厚感と市松積の壁の抜け感のバランスによって、空間に奥行と多様性が生まれている

  • 木・石・ガラス・塗り壁。質感の異なるマテリアルを組み合わせ、シンプルでありながら表情豊かに仕上げたレセプションルーム。一部を吹抜けにして空間にメリハリを持たせた

    木・石・ガラス・塗り壁。質感の異なるマテリアルを組み合わせ、シンプルでありながら表情豊かに仕上げたレセプションルーム。一部を吹抜けにして空間にメリハリを持たせた

伝統的な素材をモダンに昇華させた
新旧の時間が重なり合う多層空間

設計を「その場所の価値を再発見していく作業」と位置付け、「地域・風土に根付いた建築をつくりたい」と話す堤さん。

地域性を建築に取り入れる手法として採用したのが、麗江の伝統ある素材を現代的に昇華させたデザイン。

まず一つ目が、現地で採れる鮮やかな色合いの五花石を大胆に利用した外壁。

そして二つ目が、名産品である手漉きのトンパ紙をガラスに挟み込んだ光壁だ。

「現地の文化・風習との連続性を保つことを意識し、麗江でしか手に入らない素材を使用しています。市松模様の透かし積みを一部に取り入れるなど、五花石は積み方・貼り方・表面仕上げを場所によって変化させ、空間の多様性を表現しました」。

白沙村を象徴する石積みの古い記憶に新しい思考を挿入することで生まれたのは、古民家を改修したノスタルジックな宿泊施設という「記号性」にとどまらない、過去と未来、新旧の時間が重なり合う多層的な空間。

そこには、この地に根付き継承されてきた歴史や文化、暮らしを営んできた人々への敬意と尊重を宿す「地域の文脈と連続する建築」を手がける、堤さんの深いまなざしが息づいている。
  • 木・石・ガラス・塗り壁。質感の異なるマテリアルを組み合わせ、シンプルでありながら表情豊かに仕上げたレセプションルーム。一部を吹抜けにして空間にメリハリを持たせた

    木・石・ガラス・塗り壁。質感の異なるマテリアルを組み合わせ、シンプルでありながら表情豊かに仕上げたレセプションルーム。一部を吹抜けにして空間にメリハリを持たせた

  • 白沙村の文化・風習とともに、館内には禅のスタイル・わびさびを象徴するような日本的な落ち着きが宿る。ゲストルームもモダンでありながらどこか懐かしさを感じられる空間だ

    白沙村の文化・風習とともに、館内には禅のスタイル・わびさびを象徴するような日本的な落ち着きが宿る。ゲストルームもモダンでありながらどこか懐かしさを感じられる空間だ

  • プライベートな空間(ゲストルーム)とパブリックな空間を緩やかに区切る中間領域として水路を活用。壁で分断することなく連続性を担保したままプライバシーを確保している

    プライベートな空間(ゲストルーム)とパブリックな空間を緩やかに区切る中間領域として水路を活用。壁で分断することなく連続性を担保したままプライバシーを確保している

  • 露出された木造架構と五花石の硬質な外殻のコントラストを引き立て、軽快さと重厚さが対比的に表れるよう意図して設計。新旧の時間が入り混じったハイブリッドな空間が誕生

    露出された木造架構と五花石の硬質な外殻のコントラストを引き立て、軽快さと重厚さが対比的に表れるよう意図して設計。新旧の時間が入り混じったハイブリッドな空間が誕生

  • 外部空間であるはずの廊下が、気づけば内部空間の一部である中庭へと転換。敷地内を回遊すると、外から内、内から外へと空間が拡張し、緩やかにつながり合う連続性を感じられる

    外部空間であるはずの廊下が、気づけば内部空間の一部である中庭へと転換。敷地内を回遊すると、外から内、内から外へと空間が拡張し、緩やかにつながり合う連続性を感じられる

空間や景色の変化を楽しむための
「回遊性」と「居場所」をデザイン

かつての姿をとどめる重厚な大門をくぐり、白沙村の伝統である美しい石積みの建物に迎えられ、水路が流れる大らかな内部空間へ。

遠くに「玉龍雪山」を見晴らし、徐々に切り替わる景色を楽しみながら、水路沿いを歩いたり、階段を上ったり下ったり。

建物の内と外、高低差、近景と遠景の対比。

敷地内を移動する際に生まれる空間や景色の変化を楽しむ「回遊性」によって、建築は単なる機能の場ではなく、五感をゆさぶるエモーショナルな場となり、ゲストの記憶に深く刻まれる、この場所ならではの特別な滞在体験が生み出される。

「集落を歩き回るかのような回遊性と、動線上に散りばめられた多様な居場所。今回のプロジェクトで意図したこれらは、私が住宅の設計においても意識している普遍的な要素です。なぜなら、選択肢が多い方が生活は楽しくなるから。たとえば本を読むなら、晴れた日は眺めのいい窓辺やデッキで開放的に、雨の日はおこもり感のある踊り場で雨音を聞きながらひっそりと。そんな風に自由に過ごしてもらえたら嬉しいです」と堤さん。

「毎日ここで過ごすのが楽しく、幸せを感じています」。

ホテルの館長から届いたというメッセージの通り、堤さんが生み出す「地域・風土に根付く建築」は、その場所に存在することに幸せを感じるとともに、周辺の自然や街並み、人、歴史や文化をすべて包括した「土地」そのものへの愛着を深めてくれる。
  • 山から雪解け水が流れ落ちる風景を模し、上層から下層への水の流れをデザイン。小さな滝のように流れる水の音が心地よく耳に響き、麗江の豊かな自然を五感で体感できる

    山から雪解け水が流れ落ちる風景を模し、上層から下層への水の流れをデザイン。小さな滝のように流れる水の音が心地よく耳に響き、麗江の豊かな自然を五感で体感できる

  • すべてのゲストルームに専用テラスを設けるとともに、パブリックなプラットホーム(展望スペース)を自由に配置。お気に入りの「特等席」を見つけるのも楽しい

    すべてのゲストルームに専用テラスを設けるとともに、パブリックなプラットホーム(展望スペース)を自由に配置。お気に入りの「特等席」を見つけるのも楽しい

  • 自然と建築、既存部と新築部。それぞれに共通項を見出すことで、相対する存在ではなく、すべてがひとつに重なり溶け合うような居心地のいい場所をつくり上げている

    自然と建築、既存部と新築部。それぞれに共通項を見出すことで、相対する存在ではなく、すべてがひとつに重なり溶け合うような居心地のいい場所をつくり上げている

  • 「地域・風土に根付く建築」というコンセプトのもと、経年変化した既存の柱や壁と、現代の意匠や素材を融合。木材も既存部に使われている物と近しい風合いの樹種を選び使用している

    「地域・風土に根付く建築」というコンセプトのもと、経年変化した既存の柱や壁と、現代の意匠や素材を融合。木材も既存部に使われている物と近しい風合いの樹種を選び使用している

  • 「四合院形式」を踏襲した敷地配置により、地域の文脈と連続する建築を形に。大門のてり(反り)のある屋根、五花石の美しい壁、魔除けの瓦猫もかつての面影をそのまま残している

    「四合院形式」を踏襲した敷地配置により、地域の文脈と連続する建築を形に。大門のてり(反り)のある屋根、五花石の美しい壁、魔除けの瓦猫もかつての面影をそのまま残している

基本データ

作品名
青普麗江白沙リトリート
所在地
中国雲南省麗江市白沙鎮白沙行政村忠義四社
延床面積
2482.5㎡

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