本館に隣接して「HANARE」を計画。
利用者皆の安全性、利便性が向上した歯科医院

長らくこの地で親しまれていた歯科医院の、隣の敷地に「離れ」を計画するプロジェクト。望まれていた川の氾濫対策や、駐車場の増設を実現するため、建築家の林さんが提案したのは1階がRC造、2、3階が木造という混合造だった。中央に通路ができたことで、車での入出時の安全性も高まったという。

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出入りしやすい駐車環境、川の氾濫対策。
RC造の1階で本館の使い勝手も向上

香川県、中多度津郡。今回紹介する「HANARE」は、長くこの地で親しまれている歯科医院の別館として計画された。歯科医院の中でも珍しく院内に歯科技工室があり、以前よりその設備を拡張したいと考えられていたオーナーさま。本館に隣接する敷地が購入可能になったことから、このプロジェクトが本格的にスタートしたという。

本館に隣接して「HANARE」をつくるにあたり、オーナーさまが望まれた点は大きく3つ。まずは、先述した歯科技工室の移設と拡張。他に駐車場の拡張と、何年かに1回起こるという川の氾濫対策もしたいとのことだった。

依頼を受けて設計を担当した林健太郎建築設計事務所の林健太郎さんが提案したのは、1階がRC造、2、3階は木造の建物。1階のみをRC造にした理由は複数あるという。

ひとつは、木造よりも水に強いということ。「本館のほうを見ると、ここまで水に浸かったなとわかる跡がありました。いずれにせよ浸水は嫌なものですが、RCであれば建物が強いですから」と林さん。また、診察室は2階、技工室は3階に配置。しっかりした土台が確保されたうえで、守らなくてはならない機材などは全て2階以上にあるため安心だ。

さらに林さんは駐車場問題を解決するため、1階中央部分を大きく抜いて通路を計画した。これもこの構造だからこそできたとのこと。前面道路は車通りも多く、駐車場の混雑により渋滞してしまうこともあったのだとか。駐車可能な台数を増やすだけでなく、建物裏を走る道路まで通り抜けられるようにしたことで混雑を緩和。本館との行き来もしやすく、歯科医院を訪れるすべての患者さまにとって使いやすくなった。

さらに、1階部分は天井高も高い。シャッター付きの駐車スペースに大型車を入れることができ、機材の搬入などに役立っているという。

混合造を選択したことで建物をより自由に計画することができ、そのおかげで多くの利点が得られた。「HANARE」ができたことで、本館の利便性も向上したに違いない。
  • 外観。周辺の建物よりも背が高いため、前面道路から距離を取り圧迫感をなくした。裏の道路まで通り抜けられることで、駐車時・退出時の混雑を軽減。また、1階の壁面をL字に開口し、道路までの見通しをよくした。本館利用者は、開口部や建物右のアプローチから行き来できる

    外観。周辺の建物よりも背が高いため、前面道路から距離を取り圧迫感をなくした。裏の道路まで通り抜けられることで、駐車時・退出時の混雑を軽減。また、1階の壁面をL字に開口し、道路までの見通しをよくした。本館利用者は、開口部や建物右のアプローチから行き来できる

  • 外観。建物の長辺に対しては表裏に道路が走っており、また隣家との距離もあることからすべての面の外壁が見える。そこで、右隣に本館があることから左側の外壁を建物の裏と設定し、配管などを集めた。美しく整えられた管のラインがスタイリッシュかつワイルドな印象

    外観。建物の長辺に対しては表裏に道路が走っており、また隣家との距離もあることからすべての面の外壁が見える。そこで、右隣に本館があることから左側の外壁を建物の裏と設定し、配管などを集めた。美しく整えられた管のラインがスタイリッシュかつワイルドな印象

  • 外観。ご要望だった付近にある川の氾濫対策を兼ね、1階はRC造。木造の2、3階部分は木造で計画した。診察室、技工室は窓が少ないが、階段室の2階から3階までを吹き抜けとし、さらに大きく開口して日射を屋内に取り込んだ。階移動のときなど、外が見えリフレッシュできる

    外観。ご要望だった付近にある川の氾濫対策を兼ね、1階はRC造。木造の2、3階部分は木造で計画した。診察室、技工室は窓が少ないが、階段室の2階から3階までを吹き抜けとし、さらに大きく開口して日射を屋内に取り込んだ。階移動のときなど、外が見えリフレッシュできる

  • 2階、診察室。「治療時、患者さまが一番見るのは天井ですから」と林さん。天井は木のフローリングで仕上げ、また患者さまの目に直接光が入らないよう間接照明を取り入れた。器具などを落とした際、見つけやすいよう床は黒とした

    2階、診察室。「治療時、患者さまが一番見るのは天井ですから」と林さん。天井は木のフローリングで仕上げ、また患者さまの目に直接光が入らないよう間接照明を取り入れた。器具などを落とした際、見つけやすいよう床は黒とした

患者さま、スタッフ、街の住民にもやさしい
大きく明るい吹き抜けがある「HANARE」

接している道路は交通量が多く、また近隣にはすでに多くの家などが建っている。そこに新たな建物を計画するにあたり、「HANARE」は街や人に優しいデザインを意識したという。

2階建てが多いエリアの中、この「HANARE」は3階建て。そこで、道路からひとつ下がった位置に建物を計画し、周囲への圧迫感をなくした。また、1階のエントランス側は通路と前面道路に面した壁に2つの窓を配置。車が通路を抜けて前面道路へ出ていくとき、2つの窓を通して視線が抜けることで歩道や道路の状況を確認することができる。歩行者の気配など、壁の向こう側が敷地内から窺えるのはありがたい。

また、中で働くスタッフに対しても優しさが感じられる。エントランスを入るとすぐに3階まで続く階段室がある。そのうえで2階から3階部分は吹き抜けとし、窓も連続させて1つの大きな開口に見えるようにした。

階段室を明るくオープンに計画したのは、診察室や技工室に窓が少ないからだ。一日を通して光量や光の入り方を安定させなくてはならないため、日射を入れずに照明でコントロールしているのだという。そこで林さんは階の移動中に自然光を浴び、外部が眺められる場所を用意した。3階の休憩室からもこの吹き抜けを通して眺望が見られる。「周辺には3階建てがありませんから、いい眺めですよ」と林さん。きっとリフレッシュできることだろう。

また、患者さまやスタッフさんたちが階段を行き来するのが外から見える点も大切だという。中の様子がわからないよりも、人が動く様子が外から見られるほうが、周囲の住民たちからの安心を得やすいだろうと考えているからだ。さらに、階段室が明るいため、歯科医院に対する印象も明るく感じられる。いい雰囲気そうだな、と外からの様子を見て新たにこちらの歯科医院を選ばれる患者さまもいることだろう。
  • 2階、診察室。仕切り戸や壁面の開口などに木の装飾を使い、「和風モダン」を演出した。木造で計画した2階の、現しにした構造の柱もデザインの中に取り入れた。丸い開口を通して、スタッフたちは隣室の様子を窺える。窓は患者さまのプライバシーも配慮し、互い違いの位置に設けた

    2階、診察室。仕切り戸や壁面の開口などに木の装飾を使い、「和風モダン」を演出した。木造で計画した2階の、現しにした構造の柱もデザインの中に取り入れた。丸い開口を通して、スタッフたちは隣室の様子を窺える。窓は患者さまのプライバシーも配慮し、互い違いの位置に設けた

  • 2階、待合室(右)、診療室(左)。待合室はダウンライトを使用し明るさを確保。角度がつくと面にも見える縦格子を仕切りとし、視線の抜けもつくった

    2階、待合室(右)、診療室(左)。待合室はダウンライトを使用し明るさを確保。角度がつくと面にも見える縦格子を仕切りとし、視線の抜けもつくった

  • 2階、左側手前に事務室、奥にカウンセリングルーム。和紙のような質感のクロスを色違いで入れた

    2階、左側手前に事務室、奥にカウンセリングルーム。和紙のような質感のクロスを色違いで入れた

木造の柱もデザインの一部に。
格子が引き立たせる、上質な和モダン空間

道行く人も佇まいから好感を持つだろう「HANARE」は、院内の雰囲気も安心感がある。明るい階段室を2階まで進むと、木質の壁の一部がすっと開き、落ち着いた設えの診察室エリアへと進むことができる。

「2階はオーナーさまやスタッフの皆さんとかなり打ち合わせをし、配置から設備までこだわって計画しました」と林さん。通路を挟んで一方に診察室が4室並び、反対側には待合室やカウンセリングルームを配置した。

希望された「和風モダン」は、診察室の仕切り戸や、待合室の仕切りなどに木製の格子を取り入れることで演出。木造である2階は木製の柱が表に出てきている部分があるため、格子をアクセントとして使用することで、柱もデザインの一部に取り込んだ。

診察室の壁面には木の装飾の入った丸窓を1か所ずつ、それぞれ開口の位置が重ならないように配置している。これは、スタッフ同士が隣の部屋の様子を確認できるようにという要望から実現した。また、リラックスして治療が受けられるよう、患者さまの視界に入る範囲には直接光が目に入るような照明は設けていない。そのうえで、温かみのある木天井を取り入れ住まいのような居心地が得られる空間をつくりあげた。

3階の技工室はヒアリングから、用途に合わせた広さや機能を備えた部屋を複数確保した。加工はち密に行われるため窓は最低限とし、主に蛍光灯で安定した光量を確保している。ただ、日射に影響しない部屋と部屋を仕切る壁に窓を開けているおかげで、閉塞感は軽減されている。また、2階、3階の床に黒を選択したのは、器具などに白が多く使われており、落とした時にすぐわかるようにという理由からだそうだ。

同じく3階に設けられた応接室と休憩室を兼ねた部屋からは、吹き抜けを通して外が見える。キッチンやシャワーなど設備も充実。一方で、応接室として使用するときにはそれらを扉で隠せるようにした。天井も高く、吹き抜けの階段室からは気持ちよく空も見え、リラックスできる。

「すごく素敵で、おしゃれになった」とオーナーさまをはじめ、スタッフの方々からも喜ばれたという「HANARE」。しっかりとした機能を備えつつ、細部にまでこだわったデザインでイメージを的確に表現したからだろう。人々から愛される場所が、この街に1つ増えた。
  • 3階、技工室A(手前)、ガラスの抜けの奥には技工室B、右壁面の仕切りを入ると技工室Dがある。緻密な作業のため日射が入る窓は最低限とし、蛍光灯で室内を照らしている。壁の一部を開口して閉塞感を解消。さらに技工室Bを通して外部も見えるようにし、作業環境を向上させた

    3階、技工室A(手前)、ガラスの抜けの奥には技工室B、右壁面の仕切りを入ると技工室Dがある。緻密な作業のため日射が入る窓は最低限とし、蛍光灯で室内を照らしている。壁の一部を開口して閉塞感を解消。さらに技工室Bを通して外部も見えるようにし、作業環境を向上させた

  • 3階、休憩室兼応接室。スタッフのために必要なシャワー、洗濯機、シンクなどを完備。応接室として使用するときは扉で隠せるようにした。天井が高く、ゆったりとつくられた空間でリラックスできる

    3階、休憩室兼応接室。スタッフのために必要なシャワー、洗濯機、シンクなどを完備。応接室として使用するときは扉で隠せるようにした。天井が高く、ゆったりとつくられた空間でリラックスできる

  • 3階、休憩室兼応接室。階段室に面しているため光が入り、明るい空間。右の戸を開けるとシンクなどがある。左奥の茶色の扉は技工室Aへ、手前の白い扉は階段室へと、就労場所にそのままアクセスできる扉を設けており便利

    3階、休憩室兼応接室。階段室に面しているため光が入り、明るい空間。右の戸を開けるとシンクなどがある。左奥の茶色の扉は技工室Aへ、手前の白い扉は階段室へと、就労場所にそのままアクセスできる扉を設けており便利

  • 2階、トイレ内手洗い。トイレはラグジュアリーな雰囲気を重視して計画した

    2階、トイレ内手洗い。トイレはラグジュアリーな雰囲気を重視して計画した

間取り図

  • 2F 平面図

  • 3F 平面図

基本データ

作品名
HANARE
施主
K様
所在地
香川県中多度津群
敷地面積
342.24㎡
延床面積
201.07㎡
予 算
7000万円台