家族に寄り添う動線と空間設計
頑丈で機能的、そして美しい二世帯住宅

実家を二世帯住宅へ建て替えることを決めたお施主さま。その思いや細かな要望を丁寧に汲み取り、想像を超える住み心地を実現したのが建築家の塩澤ちひろさんだ。災害対策をはじめ安全性や機能性を高めつつ、住まい全体を美しいデザインでまとめ上げた。家族それぞれが快適に暮らせる二世帯住宅が完成した。

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この土地に長く暮らしてきたからこその願い
災害への不安に応える住まいづくり

実家を二世帯住宅へ建て替えることになったお施主さまは、親世帯と子世帯がともに暮らす完全同居型の住まいを望み、設計の依頼先について、長く検討を重ねていたという。株式会社藤井建築空間設計に決定したのは、前代表の共著書『我が家を手に入れる前に読むQ&A80』(「建築よろず相談」解説委員著/山海堂)と出会ったことがきっかけだった。ハウスメーカーを視野に入れた時期もあったが、KLASICでも以前紹介した、現代表・塩澤ちひろさんの自邸を見学したことが後押しとなり、最終的に決断したとのことだ。

家づくりに真剣に向き合っていたお施主さまは、設計のためのヒアリングが始まった時点で、具体的な希望から暮らしのイメージまでをまとめた要望書を用意していたという。その内容を読み解いた塩澤さんは、祖父母・親・子の三世代すべてに寄り添う住まいをつくりたいと考えた。完成したのはボックスを組み合わせたようなフォルムが美しい2階建ての家だ。

数ある要望の中から、まずは災害対策に取り組んだという塩澤さん。この地域は水害のリスクがあり、以前の住まいは被害を受けたことがないものの、周辺では冠水の危険性が高い場所もある。長くこの地に住む親世帯の思いを受け、災害への備えは最優先事項となった。

その対策は徹底している。液状化の可能性を踏まえて地盤改良を実施。地盤を1mかさ上げし、基礎を70cm高くすることで、道路から合計1.7mの位置に建物を計画した。「地盤を上げる」「基礎を高くする」という二段階の対策により、浸水リスクを大幅に低減した。また、1階が浸水した場合に備え、2階には災害用品を収納するロフトを設け、救助が受けられるよう2階のバルコニーからの動線も確保している。

要望のひとつに「ストレスなく暮らせる住まい」を挙げたというお施主さまだが、ここでいう“ストレス”には、日常の使い勝手だけでなく、災害への不安も含まれていたのだろう。耐震等級3を取得した堅牢な構造と合わせ、安心して暮らせる住まいが実現したことは、何より心強いに違いない。
  • ボックス型のフォルムが印象的な外観。周囲の街並みに馴染む品のよい深いネイビーの外壁が、落ち着いた佇まいを演出している。建物の奥まった部分が玄関で、道路との1.7mの高低差に対応するため、階段と折り返しながら上がる緩やかなスロープを設けた

    ボックス型のフォルムが印象的な外観。周囲の街並みに馴染む品のよい深いネイビーの外壁が、落ち着いた佇まいを演出している。建物の奥まった部分が玄関で、道路との1.7mの高低差に対応するため、階段と折り返しながら上がる緩やかなスロープを設けた

  • 北側外観。右端の張り出した部分が客間兼和室で、北面と東面のみに開口を設け、西日が入るのを防いでいる。外構のコンクリートとフェンスが高さの印象を抑え、地盤の高低差を感じささせない外観となっている。フェンスは視線を遮りながらも、光と風を取り込む役目を担っている

    北側外観。右端の張り出した部分が客間兼和室で、北面と東面のみに開口を設け、西日が入るのを防いでいる。外構のコンクリートとフェンスが高さの印象を抑え、地盤の高低差を感じささせない外観となっている。フェンスは視線を遮りながらも、光と風を取り込む役目を担っている

  • 隣接する家庭菜園から見た外観。右側のLDKとつながる広めのウッドデッキは、要望を反映した憩いのスペース。左側の壁面に収穫物を洗えるスロップシンクを設置した。1階左の戸はランドリーから物干しスペースに出る動線。2階のバルコニーは水害時の避難・救助としても機能する

    隣接する家庭菜園から見た外観。右側のLDKとつながる広めのウッドデッキは、要望を反映した憩いのスペース。左側の壁面に収穫物を洗えるスロップシンクを設置した。1階左の戸はランドリーから物干しスペースに出る動線。2階のバルコニーは水害時の避難・救助としても機能する

  • 落ち着きのある玄関。玄関と客間兼和室は直線でつながり、生活空間を見せずに来客をスムーズに案内できる

    落ち着きのある玄関。玄関と客間兼和室は直線でつながり、生活空間を見せずに来客をスムーズに案内できる

家族が集まるLDK
暮らしを支える、複数の回遊動線

完全同居型の二世帯住宅であるUの家の間取りはこうだ。1階にLDKと水回り、親世帯のスペース、客間兼和室があり、2階は子世帯の主寝室、将来用として計画された3つの個室(子ども室)、サブリビングなど、子世帯のための空間が集められている。

塩澤さんは、家族が自然と集まる暮らし方を大切にしたいと考え、1階のLDKに皆が集まるイメージで間取りを整えたという。ただ、親世帯と子世帯では生活時間帯が異なることもあり、配慮すべき点があった。

そこで取り入れたのが回遊動線。一般的には室内の一部、もしくは建物の大枠を行き止まりなく移動できるスタイルを指すが、このUの家は違う。なんと長短さまざまな回遊動線が細かに設けられているのだ。例えば1階では、玄関からLDKへ進むルートが2つある。「靴庫を抜けてキッチン脇に出るルート」と、「玄関ホールを通り、親世帯の寝室前を抜けてキッチン脇に出るルート」だ。キッチンを軸に据えることで、キッチンとパントリーの間を通る小さな回遊ルートと、リビングダイニングまで広がる大きな回遊ルートが生まれ、シーンに応じて使い分けられるのがありがたい。

靴庫を通れば玄関からパントリーまで最短距離で進めるため、食材をすぐに収納でき、日々の家事がぐっと効率的になる。また、靴庫ルート上には、2階へ上がる階段を配置。親世帯の寝室前を通らずに移動できるため、子世帯が気兼ねなく出入りできる。

さらに、水回りにも回遊動線がある。洗面・脱衣所・ランドリー・ファミリークローゼットをつなげ、身支度と洗濯家事の効率を同時に向上させた。「単純にまとめるだけでなく、流れに沿って動けるように工夫しました」と塩澤さん。外部の物干し場とファミリークローゼットの動線上にアイロンがけスペースを設けるなど、とにかく使いやすい。

2階でも、トイレと洗面を中心に主寝室やサブリビング、子ども室をつなぐ回遊動線を計画。複数の経路を確保することで、家族の動きが自然に分散するよう工夫されている。つながる場所とプライベートな空間のバランスが絶妙で、将来お子さまが成長した際にも、よい距離感を保ちながら過ごすことができるだろう。
  • 1階の客間兼和室。ベージュピンクを基調に、畳の縁や障子、照明に小菊のモチーフをあしらった柔らかな印象

    1階の客間兼和室。ベージュピンクを基調に、畳の縁や障子、照明に小菊のモチーフをあしらった柔らかな印象

  • 1階の客間兼和室。東面と北面に開口を設け、西日の影響を抑える計画としている。背面には親世帯の寝室へとつながる引き戸を配置

    1階の客間兼和室。東面と北面に開口を設け、西日の影響を抑える計画としている。背面には親世帯の寝室へとつながる引き戸を配置

  • 1階の親世帯の寝室。正面の引き戸はクローゼット。仕切りには吊り戸を採用し、凹凸のない床面を実現した。左奥にはLDKが広がり、大きく開口することで空間同士が緩やかにつながる

    1階の親世帯の寝室。正面の引き戸はクローゼット。仕切りには吊り戸を採用し、凹凸のない床面を実現した。左奥にはLDKが広がり、大きく開口することで空間同士が緩やかにつながる

  • 1階の親世帯の寝室。廊下との仕切りは2枚引き込み戸を採用し、車いす使用時でも移動がしやすい計画とした。将来を見据え、寝室の正面にトイレを配置。方向転換がしやすい廊下幅も確保した。廊下を右に進むとLDK、左に向かうと客間兼和室や玄関ホールへとつながる

    1階の親世帯の寝室。廊下との仕切りは2枚引き込み戸を採用し、車いす使用時でも移動がしやすい計画とした。将来を見据え、寝室の正面にトイレを配置。方向転換がしやすい廊下幅も確保した。廊下を右に進むとLDK、左に向かうと客間兼和室や玄関ホールへとつながる

  • 1階のLDK。キッチンの手前と奥、それぞれの通路が玄関へとつながる回遊動線を計画している。家族が集う空間は思い思いにくつろげるよう、シンプルなつくりとした。キッチンは奥様の要望で、造作家具の高さを揃えたフラットなデザインとし、LDK全体を見渡しやすくしている

    1階のLDK。キッチンの手前と奥、それぞれの通路が玄関へとつながる回遊動線を計画している。家族が集う空間は思い思いにくつろげるよう、シンプルなつくりとした。キッチンは奥様の要望で、造作家具の高さを揃えたフラットなデザインとし、LDK全体を見渡しやすくしている

長く暮らすためのバリアフリー計画
機能性と優美さを兼ね備えた住まい

家中で移動がしやすいUの家。廊下を最小限に抑えることで、空間にゆとりを確保している点も特徴のひとつだ。そのうえで、LDKを中心に各居室はシンプルに構成されている。

これは、塩澤さんの「ひとつ屋根の下に親と子世代が暮らす家だからこそ、だれもが居場所を見つけやすいよう、空間に柔軟性を持たせ、できるだけ角を減らし、住まい全体が自然につながるよう計画しました」というこだわりの賜物だ。加えて、デッドスペースも活用して収納を増やすなど、細かな部分まで意識が行き届いている。

大型の収納のひとつが、キッチン背面に設けられたパントリーだ。以前紹介した塩澤さんの自邸のキッチン収納をお施主さまが気に入り、取り入れられたという。電化製品から家庭菜園で収穫した野菜まで一手に収納できる大容量のパントリー。余計なものをLDKに出さないことで、室内をより美しく、広く感じさせてくれる。

お施主さまの将来を見据えた要望から、住まいはバリアフリーで計画した。道路から1.7m高い位置にある住まいへ、車いすを使用する場面を想定し、無理なく上がれるよう緩やかな勾配のスロープを設けている。

また、室内は玄関脇のロッカールームを除き、すべて引き戸とし、床はフルフラットで計画した。親世帯の寝室には2枚引き込み戸を採用し、車いすでも出入りがしやすい開口幅を確保している。さらに寝室の正面にはトイレを配置し、移動負担を軽減できるよう配慮。面する廊下幅にゆとりを持たせることで、車いすでの方向転換をしやすくするとともに、将来的には介護スペースとしても活用できるようにした。これらの工夫は将来の備えであるだけでなく、現在の暮らしにおいても快適性を高めている。

細やかな動線とバリアフリーの設え、そして豊富な収納が揃ったUの家は、まさに機能性に優れた住まいといえるだろう。塩澤さんの設計力が感じられるのは、それらが優美なインテリアにまとめられている点だ。お施主さまのご意向で選択した明るい色合いの床を基調に、ハイセンスな照明やアクセントとなる壁面を取り入れ、室内は落ち着きがありつつ華やかさも備えている。

安心して暮らせるのはもちろん、家族が集い、くつろげる住まい。一人ひとりに寄り添うその暮らしを、お施主さまの想像を超える表現力と設計力で形にしたのが、このUの家である。


撮影:studio-dot 大須賀
  • 1階のリビングダイニングからキッチンを中心に玄関へつながる回遊動線を見る。キッチンの左側は親世帯の寝室や客間兼和室の前を通るルート。右側は靴庫へ続くルートで、その並びに2階へ上がる階段を配置した。親世帯と生活時間帯が異なる場合でも気兼ねなく出入りできる動線計画

    1階のリビングダイニングからキッチンを中心に玄関へつながる回遊動線を見る。キッチンの左側は親世帯の寝室や客間兼和室の前を通るルート。右側は靴庫へ続くルートで、その並びに2階へ上がる階段を配置した。親世帯と生活時間帯が異なる場合でも気兼ねなく出入りできる動線計画

  • 1階のキッチン(手前)、パントリー(奥)。パントリーの3枚引き戸はお施主さまが塩澤さん自邸のキッチン収納を気に入り採用。食材や家電をまとめて収納でき、LDKに生活感が出るのを抑えてくれる。右側には靴庫からの動線があり、玄関からすぐにパントリーにアクセスでき便利

    1階のキッチン(手前)、パントリー(奥)。パントリーの3枚引き戸はお施主さまが塩澤さん自邸のキッチン収納を気に入り採用。食材や家電をまとめて収納でき、LDKに生活感が出るのを抑えてくれる。右側には靴庫からの動線があり、玄関からすぐにパントリーにアクセスでき便利

  • 1階のLDK。正面の窓際にはスポット照明を設け、ミシンコーナーに。奥まった場所は書棚付き作業スペースで、左手に進むと水回りへとつながる。明るい床色を基調に、壁面やキッチンなどでアクセントを加え、印象的な照明を組み合わせた、洗練された空間となっている

    1階のLDK。正面の窓際にはスポット照明を設け、ミシンコーナーに。奥まった場所は書棚付き作業スペースで、左手に進むと水回りへとつながる。明るい床色を基調に、壁面やキッチンなどでアクセントを加え、印象的な照明を組み合わせた、洗練された空間となっている

  • 1階の洗面から脱衣所を見通す。奥の右側は浴室。左へ進むとランドリーからファミリークローゼットと続き、撮影地点へ戻ることができる。「コンパクトにまとめるだけでなく、洗面から着替え、洗濯・物干しから収納の流れをスムーズに整えました」と塩澤さん

    1階の洗面から脱衣所を見通す。奥の右側は浴室。左へ進むとランドリーからファミリークローゼットと続き、撮影地点へ戻ることができる。「コンパクトにまとめるだけでなく、洗面から着替え、洗濯・物干しから収納の流れをスムーズに整えました」と塩澤さん

  • 1階の大容量のファミリークローゼットからランドリーを見通す。ランドリーには室内干し用のパイプやアイロンがけができるカウンターを備え機能的な配置に。撮影地点の右手から洗面へも抜け、ゆとりある広さと動線により、大人数の家族でも混雑しにくい

    1階の大容量のファミリークローゼットからランドリーを見通す。ランドリーには室内干し用のパイプやアイロンがけができるカウンターを備え機能的な配置に。撮影地点の右手から洗面へも抜け、ゆとりある広さと動線により、大人数の家族でも混雑しにくい

基本データ

作品名
Uの家
所在地
愛知県名古屋市
家族構成
夫婦+子ども2人+両親
敷地面積
435.58㎡
延床面積
253.79㎡
予 算
8000万円台

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