湘南の緑に包まれた上質リゾート空間
地形を生かし、開放的な景色と奥行きを

湘南の緑豊かなエリアに誕生した「RIDGE」は、ギャラリー、貸スタジオを主とした用途多彩な建物。制約を逆手に取ったdesus(デサス)建築設計事務所の高度な設計、非日常へ誘う空間デザインは、住宅やオフィスでも参考にしたい魅力にあふれている。

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湘南・大楠山の緑に抱かれた
用途多彩なギャラリー兼スタジオ

神奈川県の葉山町から横須賀市の相模湾側にかけての一帯は、山海の自然に恵まれ穏やかな時間が流れる人気エリア。その山側に位置する湘南国際村から海へつながる大きな坂道を下っていくと、緑の木々に調和するガラスのショーケースのような建物が目に留まる。鎌倉市にアトリエを置き、デザイン性・居心地共に優れた建物を多数手がけているdesus(デサス)建築設計事務所(以下、desus)の稲垣裕行さんと花形将壽さんが設計した「RIDGE」だ。

当初の要望はオーナーが事業用にコレクションした車の展示ギャラリーを建てたい、というものだったが、計画地は大楠山の緑を望み湘南の海にも近く、リゾート感たっぷりの好ロケーション。何より、洗練された空間デザインを得意とするdesusとの対話を重ねるうちにオーナーのイメージも膨らんでいったのだろう。「クライアントをもてなせる場所が欲しい」「貸スタジオとしても活用したい」と用途が広がり、複合的な役割を持った建物がつくられることとなった。

だが、計画地は道路が走る北西から南東へ下がっていく細長い斜面地。加えて、湘南国際村周辺は建築物の高さに関する規制が多く、多彩な空間を備えたボリューム感のある建物をつくるには難度が高い条件だった。

しかしdesusの2人は制約を逆手に取り、「斜面地」だからこそできる魅力的な空間を計画。敷地の「細長さ」も生かし、広がりを感じられる贅沢な居心地を実現している。

竣工後は、ギャラリーはもとより貸スタジオとしても好評で、ハイエンド層をターゲットとしたCM撮影などで実績を積んでいる「RIDGE」。日常を離れたひとときを過ごせる上質な空間を、早速ご紹介していきたい。
  • 葉山、横須賀にまたがる湘南国際村にほど近いゆるやかな坂道に立つ「RIDGE」。大楠山の緑と調和する佇まいは都会的な洗練とリゾート感にあふれている

    葉山、横須賀にまたがる湘南国際村にほど近いゆるやかな坂道に立つ「RIDGE」。大楠山の緑と調和する佇まいは都会的な洗練とリゾート感にあふれている

  • 窓越しの緑まで視線が抜け、豊かな奥行きを感じられるギャラリー。木造SE工法による2層吹抜けの大空間は、2階の店舗兼オフィス(写真左上)とルーフバルコニー(写真右上)をガラス張りで仕上げてあり、上方への開放感も抜群

    窓越しの緑まで視線が抜け、豊かな奥行きを感じられるギャラリー。木造SE工法による2層吹抜けの大空間は、2階の店舗兼オフィス(写真左上)とルーフバルコニー(写真右上)をガラス張りで仕上げてあり、上方への開放感も抜群

  • ギャラリーの一角にあるバーコーナー。コレクションカーを間近に眺めてお酒を楽しむ至福の時間は、クライアントへの最高のおもてなし。バーは店舗設計の知見を生かしてボトルが引き立つ照明付きの棚や、手元が見えないすっきりとしたカウンターをデザインしている

    ギャラリーの一角にあるバーコーナー。コレクションカーを間近に眺めてお酒を楽しむ至福の時間は、クライアントへの最高のおもてなし。バーは店舗設計の知見を生かしてボトルが引き立つ照明付きの棚や、手元が見えないすっきりとしたカウンターをデザインしている

  • バーコーナーから車を見る。インドネシア産の割肌溶岩石の上品で力強い質感は高級車の圧倒的なオーラに負けず、その美しいデザインと存在感を引き立てる。建物を支える柱はdesusの提案でディスプレー棚にもなるように計画

    バーコーナーから車を見る。インドネシア産の割肌溶岩石の上品で力強い質感は高級車の圧倒的なオーラに負けず、その美しいデザインと存在感を引き立てる。建物を支える柱はdesusの提案でディスプレー棚にもなるように計画

斜面地だからこそ、景色も居心地も開放的
制約を魅力に変えた着想とは

道路に面したガラス張りのギャラリーに愛好家垂涎のコレクションカーがディスプレーされた「RIDGE」。フォトジェニックな姿に目を奪われながら建物内へ足を踏み入れると、想像を上回る圧倒的な開放感に驚く。

それもそのはず、desusは最小限の壁や柱で強固な耐震性を確保するSE工法により、木造でも柱や梁が気にならないすっきりとした大空間を実現。2層吹抜けのダイナミックな展示スペースから奥へ進むと、クライアントをもてなすバーコーナー、リビング、ダイニングが次々と登場。最後は清々しい緑が広がるルーフバルコニーに迎えられ、道路からはうかがえない非日常の世界に気持ちが華やいでいく。

この贅沢でドラマチックな空間体験は、まぎれもなくdesusが意図した建築の効果だ。表側のギャラリーからルーフバルコニーまでを直線で並べ、バルコニー越しの緑に向かった視線の抜けをつくる。さらに、全ての空間に溶岩石の大壁を通し、同じ素材の連続性で豊かな奥行きを創出する──。「細長い地形」という制約をメリットに変換した見事なテクニックだ。

道路から下がっていく「斜面地」という制約についても同様のことがいえる。desusはまず、道路より低いとこに1フロア、その上に2フロアという3層の建物をプランニング。斜面という「土地の性格」を上手に生かして高さ規制をかわしつつ、要望された空間をコンプリートするために必要な床面積を確保した。

このとき、「道路より低いところの1フロア」は図面上で地下階になるのだが、実際は斜面地なのでフロアが地面に埋もれることはなく、閉塞感は皆無。窓の外は目線の高さに木々があり、一般的な1階と変わらない眺めが広がる。同じく、その上のフロア(ギャラリーやリビング、ダイニングを有するメインフロア)も図面上は1階だが、高台から緑を見下ろすのびやかな景色を楽しめて、空も間近に感じられる。

これらの開放的な眺望は、まさに「道路から下がっていく斜面地」を生かした設計の賜物。もし普通の平地だったら1階の窓は木々で覆われて空が見えにくく、地下階に至っては、緑はおろか光も望みにくかったに違いない。

そして、こうした自然との調和のクライマックスを引き立てる演出が、ルーフバルコニーにつくられた水盤だ。実は工事中にリクエストがあったというこの水盤、着工後に追加するのはかなりの難度だったはずだが、それでもやるとなったら最大の完成度で応えてくれるのがdesusだ。景色を邪魔しないデザインと水の流れにこだわった水盤は、キラキラ輝く流水がインフィニティプールのように緑に溶け込み、人々を魅了。「森を眺める」のではなく「森の中で過ごす」、そんな感覚を味わえる空間となっている。
  • バーコーナーの先はシックなリビング。1階はギャラリー、バーコーナー、リビング、ダイニング、ルーフバルコニーまでが直線でつながる空間構成。どこにいても大楠山の緑に向かって視線が抜け、贅沢な奥行きを感じられる

    バーコーナーの先はシックなリビング。1階はギャラリー、バーコーナー、リビング、ダイニング、ルーフバルコニーまでが直線でつながる空間構成。どこにいても大楠山の緑に向かって視線が抜け、贅沢な奥行きを感じられる

  • 会食用のダイニングは内部空間の最も奥に配置。道路側の賑わいから離れ、森林リゾートのような心地よい静謐に包まれる。ダイニングテーブルは一枚板でデザインしたものを特注し、キッチンもオリジナルを造作。冷蔵庫など生活感のあるものは背後の収納棚に格納している

    会食用のダイニングは内部空間の最も奥に配置。道路側の賑わいから離れ、森林リゾートのような心地よい静謐に包まれる。ダイニングテーブルは一枚板でデザインしたものを特注し、キッチンもオリジナルを造作。冷蔵庫など生活感のあるものは背後の収納棚に格納している

  • ダイニングの先は水盤のあるルーフバルコニー。丁寧につくり込まれた水盤は優雅で端正なデザイン。インフィニティプールのように景色に溶け込み、特別な時間を演出する

    ダイニングの先は水盤のあるルーフバルコニー。丁寧につくり込まれた水盤は優雅で端正なデザイン。インフィニティプールのように景色に溶け込み、特別な時間を演出する

  • 水盤がライトアップされたルーフバルコニーの夕景は幻想的な雰囲気。斜面地の上側に立つ「RIDGE」からの眺めは1階とは思えない開放感とスケール感が魅力。高台から眺めるような景色を堪能できる

    水盤がライトアップされたルーフバルコニーの夕景は幻想的な雰囲気。斜面地の上側に立つ「RIDGE」からの眺めは1階とは思えない開放感とスケール感が魅力。高台から眺めるような景色を堪能できる

  • リビングにはオーナーがセレクトしたskanthermの薪ストーブを入れている。炎のゆらぎを引き立てる精緻かつシャープなプロポーションが、溶岩石の重厚な大壁に映える

    リビングにはオーナーがセレクトしたskanthermの薪ストーブを入れている。炎のゆらぎを引き立てる精緻かつシャープなプロポーションが、溶岩石の重厚な大壁に映える

  • 2階にある店舗兼オフィス。ベージュを基調とした上品なインテリアにオーナーセレクトの赤い家具が映える。間接照明入りの本棚は、お気に入りの画集や写真集のディスプレーに最適

    2階にある店舗兼オフィス。ベージュを基調とした上品なインテリアにオーナーセレクトの赤い家具が映える。間接照明入りの本棚は、お気に入りの画集や写真集のディスプレーに最適

こだわりのディテールとオーダー家具
建築がつくる「ここにしかない特別な時間」

建築を引き立てる内装やオーダー家具にも定評のあるdesus。「RIDGE」のディテールの美しさもぜひ注目したいポイントだ。

例えば、道路側のギャラリーから奥のルーフバルコニーまで続くインドネシア産割肌溶岩石の大壁。先述の通りこの石壁は、同じ素材を連続させることで奥行きを強調する建築的な仕掛けだが、本物志向の高級感を醸し出す意匠面でも欠かせないファクターだ。その豊かな質感に合わせているのは深みのある色合いのチーク材。木々に囲まれたロケーションに馴染み、かといってナチュラルになり過ぎず、洗練されたリゾート感を出すのにこれ以上ない組み合わせだ。

空間をランクアップするオーダーの設備や家具も多く、キッチンや収納はオーナーの好みや用途に合わせてオリジナルをデザイン。冷蔵庫など生活感のあるものを隠したキッチンはウォールナットで仕上げ、細長いダイニングテーブルは贅沢に一枚板で造作。会食にぴったりのおもてなし空間をつくっている。

一方、スタッフが宿泊できる地下階はテイストを少し変え、インダストリアルな雰囲気に。アーティスティックな階段が印象的なロビースペースは無骨で温かみのある照明器具、アメリカ製のスイッチなど、エッジの効いたアイテムで上階とは異なる表情を演出。このほか、2階にもシックでホテルライクなベッドルーム、サウナ付きのバスルームなど、ため息モノの空間がラインアップされている。

自然を取り込むスケール感のある建築と、細部まで美しいインテリア。それらが生み出す世界は都会的で洗練を極めているのに、光や緑の癒やしなど、ヒトがつくり出せない豊かさを享受できる懐の深さがある。この場所に「RIDGE」という建築があって初めて味わえる特別なひとときは、招かれた人たちだけが体験できる特権といえるだろう。



撮影者:ヤマベスタジオ 山邊章史
  • 2階のベッドルームは洗面室(写真奥)、サウナルーム(写真右奥)に直結。写真左奥に進むとバスルームにつながる。ガラス張りでいつでも視界に入るため、洗面カウンターはインテリアとして成立するデザインに。照明もホッと安らげる柔らかさを演出

    2階のベッドルームは洗面室(写真奥)、サウナルーム(写真右奥)に直結。写真左奥に進むとバスルームにつながる。ガラス張りでいつでも視界に入るため、洗面カウンターはインテリアとして成立するデザインに。照明もホッと安らげる柔らかさを演出

  • 2階のベッドルームに直結する洗面室は高級感あふれる大判のタイルで仕上げられ、ラグジュアリーなホテルのよう。奥のバスルームからはルーフバルコニーに出られる

    2階のベッドルームに直結する洗面室は高級感あふれる大判のタイルで仕上げられ、ラグジュアリーなホテルのよう。奥のバスルームからはルーフバルコニーに出られる

  • 2階のバスルームから出られるルーフバルコニーにはサウナ用の水風呂を設置。青空の下でリフレッシュできる

    2階のバスルームから出られるルーフバルコニーにはサウナ用の水風呂を設置。青空の下でリフレッシュできる

  • 地下階のロビー。究極にシンプルな階段が唯一無二の現代アートを思わせる。コンクリートの質感や温かみのある照明器具が、上階とは異なるインダストリアルな雰囲気を醸す

    地下階のロビー。究極にシンプルな階段が唯一無二の現代アートを思わせる。コンクリートの質感や温かみのある照明器具が、上階とは異なるインダストリアルな雰囲気を醸す

  • 窓越しに木々の緑が広がる地下階のベッドルーム。斜面地を生かした設計により地下といっても暗さや閉塞感がいっさいなく、森林のリゾートホテルのような居心地を味わえる

    窓越しに木々の緑が広がる地下階のベッドルーム。斜面地を生かした設計により地下といっても暗さや閉塞感がいっさいなく、森林のリゾートホテルのような居心地を味わえる

基本データ

作品名
RIDGE
所在地
神奈川県
敷地面積
697.34㎡
延床面積
375.13㎡